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米アマゾンが年末商戦の「前倒しセール」を始めた切実な理由とは

米アマゾン(Amazon.com)が先ごろ発表した2021年7~9月期決算は売上高が1108億1200万ドル(約12兆6200億円)で、前年同期から15%の増加にとどまった。純利益は31億5600万ドル(約3600億円)で同50%減。6四半期ぶりの減益だった。

輸送資源を総動員、物流で人員拡充

 売上高増加率低下の理由についてアマゾンは、経済正常化に伴う消費行動パターンの回復を挙げた。コロナ禍で急拡大した前年の反動で、ECの伸びが減速したことなどがある。減益は、物流停滞への対応や人手不足による人件費上昇などのコスト増が原因とみている。 足元の10~12月期も、サプライチェーン(供給網)の混乱や労働力不足による制約が続く見通しだが、追加費用を投入して年末商戦に臨む考えだ。

 アマゾンは21年10月25日、年末の繁忙期に向けて物流態勢を強化したと明らかにした。トレーラーや配送バン、航空貨物機、貨物船などの輸送資源を総動員するほか、物流施設の人員を拡充する。これによって、11月の感謝祭から12月のクリスマスにかけての商戦期に荷物を確実に顧客に届けるとしている。すでに自社物流ネットワークの入港地を5割増やしたり、海上輸送業者から物流倉庫を追加確保したりしてコンテナ処理能力を2倍にした。

アマゾンの大型トレーラー(出所:Amazon.com

 同社グローバル・デリバリー・サービス部門上級副社長のジョン・フェルト氏は「顧客ニーズとサプライチェーンおよび輸送のバランスを保つため、数カ月かけてこの問題に取り組んできた。毎年サプライチェーンと物流網に投資をしているが、今年は規模を拡大した」と説明した。

輸送費急騰、コンテナ不足、人手不足

 米経済ニュース局のCNBCは21年10月、今年は多くの小売業者がサプライチェーン問題に直面していると報じた。背景にはコンテナ輸送コストの急騰やコンテナ不足、積み出し港における新型コロナの感染拡大、積み降ろし港や物流倉庫における人手不足などがあるという。

 21年9月には、米西海岸に運ばれてきたコンテナが荷下ろしされず、大量に積み上がっていると米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙などが報じた。港湾や陸上輸送業者、物流倉庫業者などでの人手不足が原因だという。数万ものコンテナがロサンゼルス港とロングビーチ港にとどまり、60隻以上の貨物船が入港待ちの状態。両港は、米国の輸入量の4割以上をさばいており年末商戦に影響が出そうだと伝えていた。

 物流停滞による品不足に対処するため、バイデン米大統領は10月中旬、ロサンゼルス港を24時間・休日なしの態勢に切り替えると発表した。米フェデックスや米UPS、米ウォルマート、米ホーム・デポなどに協力を求め、夜間の港利用時間を増やして状況改善を図っている。

 一方、アマゾンは21年10月、繁忙期に向けて米国で15万人の季節労働者を雇用すると発表。ニューヨーク州やテキサス州、バージニア州などの20州に集中して雇用を拡大し、年末態勢の準備を進める。

年末セール前倒しで需要集中回避へ

 このような問題によって、今年は小売大手がクリスマス間際の消費者需要を取り込みきれない可能性があると指摘されているなか、米アドビのデータを引用したCNBCの記事によると、21年の年末商戦はECサイトの品切れ率が20年に比べて2.7倍に、19年に比べて4.6倍になる見通しだ。

 こうした商戦期の需要集中を回避するため、アマゾンは前倒しセールを始めた。同社は10月初旬に、感謝祭翌日のブラックフライデー(21年は11月26日)と同規模のセールを米国で開始。衣料品や家電、家庭用品、玩具など、すべてのカテゴリーを対象に15~40%の割引商品を販売している。米衣料大手のギャップや米ディスカウントストア大手のターゲットも早期セールを展開するなど同様の動きが広がっている。