アングル:コロナ追加給付が終了、英で「食事に困る」世帯急増も

ロイター
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ロンドンのコミュニティセンター
9月30日、英国の困窮者向けフードバンクが「最悪の事態への準備」を進めている。写真は2020年3月、ロンドンのコミュニティセンターで、地元住民に届けられる食品を集める関係者(2021年 ロイター/Hannah McKay)

[ロンドン 30日 トムソン・ロイター財団] – 英国の困窮者向けフードバンクが「最悪の事態への準備」を進めている。政府が、数百万人の労働者、低所得世帯を対象に新型コロナウイルスによるパンデミックの影響を緩和するために実施していた緊急支援策の縮小を始めたからだ。

国内の最貧困層世帯を支援するために行われていた週20ポンド(約3000円)の追加給付は、来月に廃止となる。また英国は主要国としてはいち早くコロナ禍に伴う雇用支援政策を終了しており、100万人以上の労働者が不確かな未来に直面している。

乾燥パスタからベビーフードに至る基本的な生活物資を配布してきたフードバンクが特に懸念しているのは、約600万人が利用しているユニバーサル・クレジット(失業者・低所得層向けの給付制度、UC)の追加給付がなくなることだ。

「我が子に食べさせる食料のない親たちがやってくることになる」と、国内1200拠点以上のフードバンクを支援しているトラッセル・トラストで政策・研究ディレクターを務めるガリー・レモン氏は語る。

「ここ数週間、多くのフードバンクと協議したが、どこも真剣に『最悪の事態』への準備を始めている。ニーズの増加に対応するため、十分な食料を確保しようと八方手を尽くしている」

英国の動きに呼応するように、他の国々も、コロナ禍が世界経済に打撃を与えた昨年中に発表した支援プログラムの幕引きを始めている。

米国では、失業者や単発で仕事を請け負う「ギグワーカー」、経営者など数百万人を支援してきたパンデミックに伴う特別失業給付が、9月初めに終了した。その1カ月前には、家賃未納による住居立ち退きの一時猶予措置が失効している。

オーストラリアとカナダも所得補償を近く終了すると発表している。

英国政府の報道官は、所得補償給付の増額措置は初めから暫定的なもので、パンデミックによる家計への打撃を緩和する上で有効に機能してきたと表明。現段階では、労働者の仕事復帰を支援することへと焦点が移っていると説明する。

「負のスパイラル」

支援団体は、所得補償給付の増額分がカットされれば、英国内の低所得層にとって深刻な打撃になりかねないと語る。

折も折、ガソリン料金の高騰を先触れとして国内のエネルギー料金は上昇しており、平均的な世帯で年間139ポンドの支出増加が見込まれる。

3人の幼い子どもを育てるエマさんは、「前回そこ(フードバンク)を利用したとき、子どもたちはもう6日間も夕食を抜いていた」と語る。

エマさんによれば、パンデミックで家計が苦しく諸々の支払いが遅れており、所得補償給付が削減されればダメージは大きいという。

エマさんはトムソン・ロイター財団による電話取材に対して、「お金の面で負のスパイラルに巻き込まれたら、そこから抜け出すのはとても難しい。常に後手後手に回ってしまう」と語った。

エマさんは、パンデミックが低所得の親や介護者に与える影響を追跡する調査プロジェクト「COVIDリアリティーズ」で自分の経験を語っており、「週ごとに調整できる出費があるとすれば、食費しかない」と言う。

エマさんがフードバンクに行くのは数か月に1回だけだという。もっと苦しい立場の人たちの分を奪わないよう、フードバンクの利用を最小限にしようと心がけている。

「今後はもっと頻度が増えることになるだろう。こんな状況に追い込まれるとはまったく思っていなかったから、とても気が重い。裕福ではなかったけど、これほど酷い状態だったことはない。どうすればここから抜け出せるか分からない」と彼女は語る。

「すでに限界ギリギリ」

英シンクタンクのレガタム研究所によれば、給付削減により全国で80万人以上が貧困状態に陥るという。

トラッセル・トラストが2000人以上を対象として実施したアンケート調査によれば、所得補償給付利用者の5分の1は、「追加給付の廃止に伴い、食事の回数を減らさざるをえない可能性が非常に高い」と回答している。

「住居の暖房費をまかなうのが厳しくなる」という回答も似たような水準だった。

「独立運営のフードバンクは、需要急増の一方で食料の供給不足と寄付減少が生じる事態に備えて身構えている」と、インディペンデント・フード・エイド・ネットワークでコーディネーターを務めるセービン・グッドウィン氏は語る。

スコットランドのフードバンク、モレイ・フード・プラスのマイリー・マッカラム氏は、「すでに限界ギリギリ」で動いているという。

「UC削減がもたらす悪影響と、それに伴う私たちの組織への負担増加が心配だ」とマッカラム氏。「できるだけのことをやるしかない」

ロンドン東部のあるフードバンクでは、必要不可欠な食料品を詰めた袋を求めてやって来る利用者が引きも切らない。運営者はすでに、1世帯が利用できる回数を最高12回に制限せざるをえなくなった。

「毎日のように初めての利用者を迎えている」とバウ・フードバンクの広報担当者ジェミマ・ハインドマーチ氏は語る。食糧の供給が不足する懸念は「常に」あるという。

給付削減と、冬に向けた暖房費の増大は、すでにやりくりに悩んでいる人々にとって「破滅的」になりかねないとハインドマーチ氏は語る。

「あと少し生活水準が押し下げられれば、貧困ラインを下回ってしまう」

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