「データ」がつなぐ鉄のトライアングル
「今後10年、20年でEコマースは消滅し“ニューリテール”の時代となる。オンラインとオフライン、物流が結びつくことで、真のニューリテールが誕生する」
中国ECの巨人・アリババ(Alibaba)グループの創業者であるジャック・マーが2016年に行ったスピーチの一節だ。それから5年が経過したが、アリババは今どこにいて、これからどこをめざそうとしているか。本稿では、アリババのこれまでの事業展開と今後の戦略方向性を占っていきたい。
まずは、アリババのビジネスモデルをおさらいする。さまざまな事業が集積したプラットフォーマーであるがゆえ、アリババの本質は読みづらい。だが、核となる要素は、冒頭のスピーチが行われた頃から大きくは変わっていない。それは、「鉄のトライアングル」と呼ばれるEC、物流、金融の3つだ( 図表❶)。
EC事業では、アリババの祖業でもあるB2Bオンラインプラットフォーム「アリババ・ドットコム(Alibaba.com)」、B2Cの「Tモール(Tmall)」。そして、C2Cの「タオバオ(Taobao)」と全方位的に展開している。そこにリアルの生鮮スーパーである「フーマー・フレッシュ(Hema Fresh)」なども加わり、オンラインとオフラインをつなぐニューリテール(ボーダーレスリテール)はいったんの完成を見せた。結果、ネットとリアル双方でのあらゆる購買データがアリババに蓄積されることになった。
物流事業の中心会社は「菜鳥(Cainiao)」だ。ただし、菜鳥自体は物流・配達機能は持たない。彼らはアリババグループ全体で行われる輸送プロセスからデータを集積・分析し、物流ソリューションをつくりあげる。そのソリューションを提供し、実際の物流・配達はパートナー企業に任せる。菜鳥自身はいわば物流プラットフォームの役割を担うのだ。
金融事業の中核はQRコード決済を軸とした「アリペイ(Alipay)」である。今では市中の露店や屋台にまでアリペイのQRコードが掲げられており、アリババのECサイトでの購買のみならず、オフラインを含む“アリババ外”での決済も取り込む。さらに、アリペイの一機能である「芝麻信用(SesameCredit)」では、消費者の信用スコアをデータ化し蓄積。ここでも決済情報や信用情報といったデータがアリババに集められることになる。
すでにお気づきかもしれないが、この鉄のトライアングルをつなぐものは「データ」である。それぞれの事業で得られる膨大なデータが、事業を跨いで活用され、さらに新たなデータが集積される。トライアングルの中で、データの集積・活用が繰り返されることこそがアリババというプラットフォームの神髄といえよう。
C2M戦略で広がる「新製造」の世界
では、蓄積したこのビッグデータをアリババはいかに有効活用していくか。
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