「丸亀製麺」など、国内外で複数の外食チェーンを展開するトリドールホールディングス(東京都/粟田貴也社長)。世界的なコロナ禍で外食産業が苦戦する中でも同社は海外出店を続け、8月31日(現地時間)にはアメリカ・テキサス州に丸亀製麺キャロルトン店をオープンした。急速な成長を遂げるトリドールの海外戦略には、どのような秘策があるのだろうか。執行役員兼海外事業本部本部長の杉山孝史氏に話を聞いた。
聞き手=雪元史章 構成=若狭靖代
トリドールホールディングスとは
1985年創業。その後、06年のマザーズ上場、08年の東証第一部上場を経て、16年に持株会社体制に移行、トリドールホールディングスとなった。
主力業態は、讃岐うどんをセルフ方式で提供する「丸亀製麺」で、00年に兵庫県加古川市に1号店を出店して以降、20年10月末時点で国内859店舗まで成長を遂げた。海外事業では、11年にアメリカ・ハワイに海外1号店となる「MARUKAME UDON Waikiki Shop」を出店、以降台湾、香港、インドネシアなど世界各地へ精力的に出店を続けている。
20年3月期通期決算では、売上高1564億7800万円(対前年同期比7.9%増)、営業利益43億6700万円(同89.7%増)、純利益19億5600万円(同633.2%増)と好調を示していた同社。しかし、21年3月期第1四半期決算は、新型コロナウイルス(コロナ)の影響を大きく受け、売上高272億9400万円(同30.4%減)、営業赤字35億5000万円、純損失26億200万円となっている。
ハワイ出店から始まった海外事業、展開の鍵はM&A
――まずは、トリドールにおける海外事業のこれまでの歩みについて教えてください。
杉山 現在トリドールは、「丸亀製麺」などすべての業態を合わせて1736店舗を運営しています。そのうち、633店舗が海外の店舗です(20年10月12日時点)。海外第1号店は2011年にハワイ・ワイキキに出店した「丸亀製麺」で、これは弊社社長の粟田が現地視察で、「ここに店を出したい!」と熱望したことがきっかけです。このワイキキの店舗は、コロナ前までの状況では、日本国内を含めても他の追随を許さない売上No1店舗になっています。
同店の客層は、当初は日本人のお客さまが多かったのですが、アメリカの本土やほかの国からの観光客のお客さまが年々増加し、今ではその割合が大半を占めています。大手旅行口コミサイトでは、ワイキキの有名ホテルのレストランなどを抑えて、ハワイの外食店で1位の評価を獲得したこともあるほどの人気を博しています。
――その後、展開国を拡大していきました。どのような戦略のもと進めているのでしょうか。
杉山 ハワイでの大成功を足がかりに全世界に展開していこうという気運が社内で高まり、2012年12月には韓国1号店を、2013年1月には香港1号店となる丸亀製麺をそれぞれ出店しました。更に世界トップクラスの外食チェーンへの成長をめざすとなると、複数のブランドで同時並行的に複数の地域で拡大をするスケールとスピードが必要となり、マルチブランド戦略に転換して拡大を進めました。
現時点での内訳は、633店舗のうち丸亀製麺は230店舗程度で、「WOK TO WALK(ウォク・トゥ・ウォーク)」というタイの屋台料理をコンセプトにしたアジアンヌードルチェーンが約110店舗、「譚仔雲南米線(タムジャイワンナムマイシン)」「譚仔三哥米線(タムジャイサムゴマイシン)」というスープヌードルチェーンが合わせて約130店舗になっています。他、10~50店舗規模のものには、ポケ丼をカリフォルニアスタイルにして提供する「Pokeworks(ポキワークス)」や、日本式のカレーを大皿で提供する「MONSTER CURRY(モンスターカレー)」などがあります。いずれも、もともとはヨーロッパやアメリカ、香港、シンガポールなど現地で人気を集めていたフードチェーンを買収した形です。
――現地の外食チェーンをM&A(合併・買収)するうえで、選定基準などはあるのでしょうか。
杉山 現地で人気があることや、事業の規模感がわれわれの期待とフィットすることはもちろんですが、“想い”の部分で通じ合えることが大切だと考えています。食を通じた感動体験を提供することをグループ全体で大切にしたいと考えていますので、この世界観に共感してもらえるかが重要です。その中で、原点であり主力ブランドである丸亀製麺と並べても違和感のない、カジュアルなサービスや価格帯を提供するチェーンを選んでいます。
海外で受け入れられるためには現地視点のローカライズが大切
――丸亀製麺についてですが、海外展開するにあたって現地向けに味やメニューはアレンジしているのですか。
杉山 現地の好みに合わせてアレンジは加えています。豚骨スープうどんなど、現地のニーズに合わせた商品開発に加えて、かけうどんなどの出汁も現地の好みに合わせて味を調節しています。例えばアメリカではカツオの風味が強すぎるという声がありましたので、魚の香りを抑える工夫をしています。
――ローカライズしたメニュー開発については、どのような取り組みを行っていますか。
杉山 アメリカではワイキキ出店以降、ロサンゼルスなどの西海岸を中心に出店してきましたが、西海岸には食に対する感度の高い方が多く、“本場の味”に価値を見出す傾向が強い。そのためアメリカ向けにアレンジするよりも、日本で提供しているのと同じようなメニューが評価されています。
しかし、今後アメリカでさらに出店を拡大していこうとすると、ピザやハンバーガーに並ぶ存在としてうどんを受け入れられてもらわなければなりません。この可能性を探る位置づけとなっているのが、8月31日に南部のテキサス州にオープンした新店です。テキサスは西海岸とは違い、食に対して比較的保守的なエリアであると分析しており、ここでは地域の人々の好みに合わせたメニュー開発に挑みました。たとえば、今アメリカで大流行しているカツサンドや、和食メニューの中でも安定した人気を誇る炉端焼き、アメリカ人の好む「マカロニ&チーズ」風のうどんなどを扱っています。今のところ売上は非常に好調です。
――そういった現地向けメニューの開発体制や、現地店舗の運営体制はどのようになっていますか。
杉山 メニュー開発も運営も、現地が主導的に行っています。海外市場において事業を成功に導くには、その地域に合わせたノウハウや市場の理解が必要です。そのため、海外事業については主にフランチャイズもしくはジョイントベンチャーの形で展開しています。
その一環として昨年、アメリカでは現地の外食専門ファンド「Hargett Hunter(ハーゲットハンター)」とジョイントベンチャーを作り、現地での丸亀製麺の運営体制を再構築しました。この体制に移行してから初めての出店となったのが、前述の丸亀製麺のテキサス店です。今後は協業体制の下で、アメリカでの複数ブランドの積極的な展開を進めていきます。
世界中に新規出店、将来的には海外4000店舗をめざす
――海外事業における重点エリアや、今後新規に出店していきたいと考えている地域はありますか?
杉山 マーケットが大きく、所得水準が一定以上の国は同時並行で狙っていきたいと考えています。アメリカ、中華圏は引き続き重要なマーケットです。
また、ヨーロッパでは「Capdesia(キャプデシア)」という外食専門の投資ファンドと協業できることになりました。アメリカ同様、ジョイントベンチャーの形で事業を進め、来年の春頃にイギリスに丸亀製麺を出店する予定です。これを足がかりに、フランス、ドイツ、スペインなどヨーロッパ全体に展開していきたいと考えています。他には、インド、中東、中南米も今後のグループブランドの進出先として、市場調査や事業パートナーの開拓を進めているところです。
――海外事業における中長期的な数値目標はありますか。
杉山 将来的には、海外で4000店舗体制をめざしたいです。かなり大きな目標ではありますが、丸亀製麺が国内外で一気に約1000店舗まで拡大できた実績から考えると、トリドールグループの総力をあげれば不可能ではないと考えています。
海外マーケットには無限の可能性があります。トリドールがグローバルフードカンパニーとして世界中のお客さまに感動体験を届けられるよう、どんどん打って出たいと考えています。
杉山孝史氏
トリドールホールディングス 執行役員 兼 海外事業本部 本部長
慶應義塾大学卒業後、大手外資系コンサルティングファームに入社以後、複数ファームで18年間にわたりコンサルタントとして従事。数多くのグローバル企業を相手に、サプライチェーンや営業改革等の業務コンサル、経営戦略の策定、新規事業の立ち上げや海外展開の支援、海外M&A案件を多数手がける。2018年にエグゼクティブMBAも取得。大手外資コンサルファームのパートナー(執行役員)職としてクロスボーダーM&Aを統括した後に、2019年にトリドール入社。グループ目標達成のための戦略策定および実行局面を担っている。