[ワシントン 29日 ロイター] – 米商務省が29日発表した第3・四半期の実質国内総生産(GDP)速報値(季節調整済み)は年率換算で前期比33.1%増と、政府が統計を開始した1947年以来最大の伸びを記録した。
政府が導入した3兆ドルを超える景気刺激策が個人消費を押し上げた。ただ、新型コロナウイルス危機が引き起こした景気後退(リセッション)から持ち直すには1年以上かかる可能性がある。市場予想は31.0%増だった。
第2・四半期GDPは31.4%減と、過去最大の落ち込みだった。
米大統領選前に発表される最後の主要指標となったGDPは記録的な伸びとなったが、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)がもたらした人的被害を和らげる効果はほとんどない。依然として数千万人が失業しているほか、死者は22万2000人を超えた。
米大統領選を5日後に控え、大半の全米調査でリードを許しているトランプ大統領は、GDPの大幅持ち直しを景気回復の証しと主張するとみられる。ただ生産高は依然として2019年第4・四半期の水準を下回っている。成長が急速に減速している兆しと合わせて、対抗馬のバイデン前副大統領はほぼ確実にこれらを指摘するとみられる。
トランプ氏は「米国の歴史で最も大きな成長率を達成し、最善の結果となった。こうした結果が11月3日(の大統領選)前に出たのは良かった」とツイッターに投稿。一方、民主党候補のバイデン前副大統領は、経済は完全に回復していないと指摘。「米国は深い穴に落ち込んでいる。トランプ大統領の失策により、第3・四半期の成長率はこの穴から抜け出すのに十分ではない。社会の上層部は回復の恩恵を受けているが、大勢の労働者や中小企業は取り残されている」と述べた。
コーネル大学のクリストファー・ウェイ准教授は、「選挙が実施される年の上半期の経済情勢が選挙に影響を及ぼす」とし、今回のGDP統計で「全く影響は受けない」との見方を示している。
第3・四半期の前年同期比は7.4%増。第2・四半期は9.0%減少していた。生産高は19年第4・四半期の水準を3.5%下回る。第3・四半期の増加を受け、上半期の落ち込みの約3分の2が回復した。米経済は2月に景気後退入りしていた。
政府の支援策が多くの企業や失業者を支援し、これが個人消費の追い風となってGDPを押し上げた。ただそれ以降、支援策に充てる政府支援金は枯渇したほか、新たな支援策の見通しは立たない。また新型コロナ感染が全米で急増しており、レストランやバーなどの事業は制限を余儀なくされている。
個人所得は前期から5406億ドル縮小。政府の新型コロナ支援策に関連する移転支出が減ったことが要因。個人所得は第2・四半期に1兆4500億ドル増えていた。労働市場の回復が鈍化する中、消費の見通しに陰りが出ている。
パンデミック中に喪失した2220万件の雇用のうち回復したのは半分超で、解雇の動きは続いている。
米経済の3分の2以上を占める個人消費は40.7%増と、歴史的なペースで伸びた。自動車や衣料、靴などの売り上げが好調だった。サービスも増えたが、昨年第4・四半期の水準は依然下回っている。
個人消費は、1200ドルの現金給付や失業保険給付の週600ドルの上乗せを含む政府の支援が追い風となった。
消費が増える中で輸入も増加し、貿易赤字が拡大した。ただ一部の輸入品は在庫にまわった。在庫の積み上げは貿易によるGDPへの重しを相殺した。
第2・四半期に落ち込んだ設備投資も持ち直した。ただエコノミストは、新型コロナによる生活の変化に関係ないモノの需要は引き続き弱いため、設備投資の持ち直しが一時的なものであるとみている。パンデミックにより原油価格も急落し、鉱物探査など非住宅構築物への支出も低迷している。
米航空機大手ボーイングが28日に発表した決算は、4四半期連続の赤字となった。21年末までに早期退職優遇制度や解雇、定年退職による自然減を通して、世界中の約13万人の従業員のうち3万人を削減する計画を明らかにした。当初の人員削減計画の倍近くの規模となる。
過去最低水準の金利を追い風に、住宅市場も好調だった。一方、移転支出が第2・四半期だったため、政府支出は第3・四半期GDPの重しとなった。新型コロナの危機により厳しい財政状況となっている州や地方政府のよる支出削減も重しとなった。
ナットウエスト・マーケッツ(コネチカット州)のチーフ米国エコノミスト、ケビン・クミンズ氏は「米国のGDPは2021年第4・四半期まで新型コロナ感染拡大前の水準を回復しない。産出ギャップを埋めるにはさらに時間がかかる」と厳しい見方を示した。