英国のナウ・ヘルスケア・グループ(Now Healthcare Group)は、テレファーマシー(テレコミュニケーションを通じた薬局サービス)拠点の「ナウ・ファーマシー(Now Pharmacy)」を開設した。AI(人工知能)を搭載したアプリ「ナウ・ペイシェント(Now Patient)」を通じ、処方薬配達などのサービスを開始した。薬局の閉鎖が目立つなか、患者のアクセス改善の決め手になるか――。
薬局の閉鎖が目立つ英国
慢性疾患に悩む患者へのNHS(国民健康保険制度)処方薬の配達など薬局サービスの提供を行うナウ・ヘルスケア・グループによると、健康関連の遠隔サービスを行う企業のうち、同グループはテレファーマシーを自社で所有する世界で唯一の企業であるという。リー・デンティス創業者兼CEO(最高経営責任者)は次のように述べた。
「NHSが進化するなか、デジタル技術の革新は患者に質の高いケアや選択肢を提供するのにきわめて重要だ。英国では1500万人が慢性疾患に苦しんでいる。アプリ『ナウ・ペイシェント』は、彼ら自身が健康を管理することを容易にすると同時に、この国の拡張されすぎた健康保険サービスの負担を軽減することに役立つ」
デンティスCEOのこの発言の背景には、次のような社会的な事情がある。
近年英国では薬局の閉鎖が目立つ。たとえば、薬局チェーンのロイズ・ファーマシー(Lloyds Pharmacy)は2017年10月に、約190店舗を閉鎖することを発表した。閉鎖は、英政府による医療費削減政策や職業実習賦課金制度の導入など企業負担の増加が要因といわれている。NHSが調査会社のファーマデータに依頼して17年に実施した調査では、国内の2700の地域薬局が閉鎖の危機に瀕しているという。薬局の閉鎖によって、人々、ことに過疎地域に住む人々が最も必要とするサービスにアクセスできない事態が生じつつある。これを重く見た英保健相は、薬局サービスをオンラインで提供するテレファーマシー“拠点”を事態改善に役立てようと考えている。
リバプールに開設された「ナウ・ファーマシー」は、まさにその政府の目論見にかなう、NHSから承認されたテレファーマシー拠点だ。その施設には薬の調合を効率化する最新のロボット技術を導入し、1カ月に50万件の処方薬を調剤することが可能である。調合した医薬品は、過疎地を含めた国中に配達料無料で届けている。そのため、薬局に容易に通えないが、頻繁に処方薬を服用しなくてはならない患者にとって頼りになる存在になりそうだ。
ロボットが必要な医薬品を ピックアップ
このサービスを利用したい患者はまず、アプリ「ナウ・ペイシェント」をダウンロードする。そして、いくつかの質問事項に答え、個人登録する。「ナウ・ペイシェント」は利用者の許可を得て、NHSの個人記録から処方された医薬品の情報を受け取り、それをアプリ上にリストアップする。利用者は、アプリ上に掲載された医薬品のうち、届けてほしい薬を選択し、配達先を指定する。
NHSは電子処方サービス(EPS)という仕組みを導入している。これは、かかりつけ医が各患者の処方せんを患者が指定した薬局にオンラインで送付するサービスである。患者が「ナウ・ペイシェント」に注文した医薬品を調合するにはかかりつけ医の許可が必要であり、「ナウ・ペイシェント」は患者に代わって医師から許可を得る。
その後、処方データは拠点「ナウ・ファーマシー」に送られ、最新のロボットが必要な医薬品をピックアップする。そして、それを薬剤師が最終チェックして、配送手続きをとる。
医薬品は郵便もしくは「ナウ・ペイシェント」独自の配達車で届けられる。
最初の医薬品が配達された後は、患者は「ナウ・ペイシェント」のほかのサービスも利用できるようになる。たとえば、薬がなくなる前に次の受付を促すメッセージを受信したり、医師とテレビ電話で健康相談をしたりすることもできる。
「ナウ・ペイシェント」は17年10月にリリースされ、現在7万台のスマートフォンにダウンロードされている。