LINEやアップルも参入!脚光浴びる「ミニプログラム」の威力
中国では、アプリの時代が終わり、ミニプログラムの時代へと移り始めている。ミニプログラムというのは、もともとテンセント(Tencent)のSNS「ウィーチャット(WeChat)」の中で利用できるウェブアプリのことで、2017年1月に搭載された機能だ。同社のミニプログラムの成功を見て、アリババ(Alibaba)系のスマホ決済「アリペイ(Alipay)」、検索大手「バイドゥ(百度)」なども対応を始めている。さらに、実装手段は異なるものの、日本でもLINEが「LINE ミニアプリ」を公開、アップルも今秋より、同様の仕組みである「App Clips」をリリース予定だ。
こうしたミニプログラムは、飲食店や小売店の新規顧客獲得ツールとして活用されている例が多く、飲食チェーンの中には、顧客との接点を自前のアプリからミニプログラムに移行しているところも表れ始めている。
ミニプログラムが持つ圧倒的な利便性
ミニプログラムの利点は大きく3つある。1つはインストールが不要な点で、母体のアプリ内で起動、読み込みが行われる。2つめはアカウント登録の必要がない点で、ウィーチャットであれば既存アカウントで自動ログインされる。そして3つめが決済情報の入力・登録がいらない点。アカウント同様に決済方法もウィーチャットに自動設定されるので、新たにクレジットカードなどを登録する必要はない。
アプリを介して消費者とのチャネルを築こうとしても、アカウント登録、クレジットカード登録の煩雑さが離脱ポイントとなり、顧客を効率的に獲得できないという課題がある。ミニプログラムではこれが解消されるのだ。
ミニプログラムの最も利便性の高い使い方の1つとして挙げられるのが、カフェのモバイルオーダーだ。たとえばウィーチャット上で、「付近のミニプログラムを検索」を実行すると、近隣に店舗があるチェーンのミニプログラム一覧が表示される。そこから好きなカフェのミニプログラムを選び、モバイルオーダーを行う。あとは地図を見ながら店舗に行けば、すぐに商品が受け取れるといった流れだ。アカウント登録や決済情報の新規登録が不要であるため、初めて利用するチェーンであってもモバイルオーダーがすぐに利用できる。
スマホ活用の在り方を変える?
こうした利便性の高さから、ミニプログラムは新規顧客獲得ツールの大本命として注目されている。委託開発サービス企業「即速応用」の調査によると、19年末の時点で、ウィーチャットのミニプログラムの数は236万以上、アリペイは20万以上、バイドゥは15万以上となっている。
中国ではカフェだけでなく、飲食店のモバイルオーダー、フードデリバリー、さらには小売店の店舗起点のECサービス、映画館の予約など、これまでは個々に事前会員登録と決済方式の設定が必要だった生活関連サービスの多くが、ミニプログラムに対応している。なかには、自社アプリのアップデート頻度を落とし、ミニプログラムに軸足を移しているチェーンも見られるほどだ。
また、ミニプログラムの実態はウェブアプリであるため、開発費、開発期間ともにネイティブアプリ(個々にダウンロードして利用する一般的なアプリ)の半分以下といわれている。そのため、自社でアプリをリリースするほどの資金力、開発力がない小規模チェーン、個人商店などでもミニプログラムを活用する例が出てきている。
テンセントは19年のウィーチャットのミニプログラム全体の平均DAU(1日のアクティブユーザー数)は3億人を突破し、ミニプログラム経由の年間の流通総額(GMV)は8000億元(約12兆円)を突破したと発表している。飲食、小売では、もはやミニプログラムに対応をせざるを得ない状況になっているのだ。
前述のとおり、日本でもLINEやアップルがミニプログラムのリリースに着手しているが、とくに注目されるのはアップルのApp Clipsだ。今秋公開される「iOS14」から搭載される予定で、アップルが始めるということは、App Clipsがワールドワイドに展開されることを意味する。今秋以降、モバイルオーダーやフードデリバリー、店舗起点のECといったサービスが、世界中で当たり前のことになる可能性がある。小売業によるスマホ活用の在り方は、大きな変革期を迎えようとしているのだ。