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ウォルマートが仕掛ける次世代の広告戦略 カギを握る「ウォルマート・クリエイター」とは

米小売大手ウォルマート(Walmart)が2022年に展開したクリエイター向けプラットフォーム「ウォルマート・クリエイター(Walmart Creator)」が成果を上げている。このプラットフォームは、同社の商品を紹介したクリエイターを対象に、紹介した商品が売れると手数料が還元されるというもの。ウォルマートはこの仕組みを経由し、多数のクリエイターを販売促進の担い手として活用テレビCMや新聞折込チラシといった従来のマス広告では実現できないきめ細かな商品プロモーションを行い、売上を伸ばすことに成功している

※記事中はすべて1ドル=147円で換算

MDV Edwards/iStock

アルファ世代が好むブランド、ウォルマートが3位に

 米市場調査企業のデジタルコマース360(Digital Commerce 360)によると、米EC市場の売上高ランキング1位はアマゾン(Amazon.com)が提供する有料会員サービス「アマゾンプライム(Amazon Prime)」だった。同サービスの24年の推定年間売上高は4475億ドル(約65兆7825億円)にのぼる。

 2位は、ウォルマートが提供する定額制サブスクリプションサービス「ウォルマート+(Walmart+)」で、24年の推定年間売上高は1209億ドル(約17兆7723億円)だった。同サービスの25年5~7月期の詳細な売上高は公表されていないものの、対前年同期比25%増と大幅に伸長したことが発表されている。

アルファ世代からの支持が厚いブランドのトップ10(Retail Media Breakfast Club

 主に18~49歳の顧客からの支持が厚いウォルマートがオンライン事業をさらに拡大するためには、10年以降に生まれたデジタルネイティブの「アルファ世代」を取り込むことがカギとなる。米市場調査企業のDKC Analyticsが、アルファ世代の子を持つ保護者を対象に「子供がとくに好きなブランド」を調査したところ、ウォルマートは2位のアマゾンに次いで3位に入っている。7位のターゲットよりも有意に高い評価であり、ウォルマートがティーン層に強い支持を受けていることがわかる。

 アルファ世代は従来型のマスメディア広告より、SNS上で影響力を持つインフルエンサーによるレビューや商品紹介に対して強い信頼を寄せる傾向がある。同社はこうした傾向に対して、ウォルマート・クリエイターで順応しているのである。

著名YouTuberと提携し、初年度売上高368億円に

クリエイターをプロモーションに活用するためのプラットフォーム「ウォルマート・クリエイター」(Walmart

 ウォルマートは22年9月、4億3000万人以上のフォロワーを抱える人気YouTuberのジミー・ドナルドソン氏(通称ミスタービースト)と提携し、同氏が立ち上げたチョコレートブランド「Feastables(フィースタブル)」の菓子を自社販売網で売り出した。この試みは大成功をおさめ、同ブランドは発売からわずか4カ月で売上高1000万ドル(約14億7000万円)を突破した。この成功には、一貫して商品クオリティにこだわり、同氏のYouTubeチャンネルの主な視聴者層であるアルファ世代やZ世代のニーズに応えて信頼関係を築いてきたことが大きく寄与していると見られる。

 ウォルマートと提携して売上を伸ばした例はほかにもある。そのうちの1つが、イギリスの人気YouTuber、KSI氏と、米国のインフルエンサー、ローガン・ポール氏が22年に立ち上げたスポーツドリンクブランド「Prime Hydration(プライム・ハイドレーション)」だ。同ブランドは22年にウォルマート・クリエイターで大規模なプロモーションを展開し、初年度の売上高が2億5000万ドル(約367億5000万円)を超えた。また、元ミュージシャンのジャスティン・フロム氏が立ち上げた子ども向けお絵描きキット「Flo-Magic(フローマジック)」も、同プラットフォームを活用したことで売上を大きく伸ばしている。

 ウォルマートのウィリアム・ホワイト副社長は、米のビジネス誌「Forbes(フォーブス)」が主催した24年10月のイベント「Forbes Creator Upfronts(フォーブス・クリエイター・アップフロント)」で、「弊社のメディアの85%で(インフルエンサーやクリエイターのSNS投稿や動画コンテンツを経由した)ショッピングが可能になっている」と明かした。

 また、ウォルマートでSNSマーケティングを担当するサラ・ヘンリー氏は25年7月、「ウォルマート・クリエイターは、ローンチ以来、驚異的な成長を遂げてきた」と総括した。具体的な数字への言及はなかったものの、サイト訪問者が実際に購入に進むコンバージョン率において、かなり手応えがあることをうかがわせるものだ。ウォルマートにおいて、ウォルマート・クリエイターはインフルエンサーやクリエイターを活用する次世代型ビジネスにおける中心的な存在になっているようだ。

 インフルエンサーやクリエイターが関わる米国内の市場規模は24年に2500億ドル(約36兆7000億円)と推定されたが、27年には5000億ドル(約73兆5000億円)に達するとフォーブスは予想している。インフルエンサーやクリエイターのプロモーションへの活用は、リテールメディア戦略の要のひとつになっているのである。

 米ホームセンター大手のロウズ(Lowe’s)や米家電販売大手のベストバイ(Best Buy)もウォルマート・クリエイターに似たようなプラットフォームを立ち上げた。そのほか、アパレル企業のアメリカン・イーグル(American Eagle)がインフルエンサーやクリエイターが参加するアフィリエイトコミュニティを設立するなど、追随する企業が相次いでいる。このように、新たな世代の客層の取り込みをめざす米小売各社の中で、ウォルマート・クリエイターのような取り組みは「標準」となりつつある。

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