ウォルマートが仕掛ける次世代の広告戦略 カギを握る「ウォルマート・クリエイター」とは

岩田 太郎(在米ジャーナリスト)

著名YouTuberと提携し、初年度売上高368億円に

クリエイターをプロモーションに活用するためのプラットフォーム「ウォルマート・クリエイター」(Walmart

 ウォルマートは22年9月、4億3000万人以上のフォロワーを抱える人気YouTuberのジミー・ドナルドソン氏(通称ミスタービースト)と提携し、同氏が立ち上げたチョコレートブランド「Feastables(フィースタブル)」の菓子を自社販売網で売り出した。この試みは大成功をおさめ、同ブランドは発売からわずか4カ月で売上高1000万ドル(約14億7000万円)を突破した。この成功には、一貫して商品クオリティにこだわり、同氏のYouTubeチャンネルの主な視聴者層であるアルファ世代やZ世代のニーズに応えて信頼関係を築いてきたことが大きく寄与していると見られる。

 ウォルマートと提携して売上を伸ばした例はほかにもある。そのうちの1つが、イギリスの人気YouTuber、KSI氏と、米国のインフルエンサー、ローガン・ポール氏が22年に立ち上げたスポーツドリンクブランド「Prime Hydration(プライム・ハイドレーション)」だ。同ブランドは22年にウォルマート・クリエイターで大規模なプロモーションを展開し、初年度の売上高が2億5000万ドル(約367億5000万円)を超えた。また、元ミュージシャンのジャスティン・フロム氏が立ち上げた子ども向けお絵描きキット「Flo-Magic(フローマジック)」も、同プラットフォームを活用したことで売上を大きく伸ばしている。

 ウォルマートのウィリアム・ホワイト副社長は、米のビジネス誌「Forbes(フォーブス)」が主催した24年10月のイベント「Forbes Creator Upfronts(フォーブス・クリエイター・アップフロント)」で、「弊社のメディアの85%で(インフルエンサーやクリエイターのSNS投稿や動画コンテンツを経由した)ショッピングが可能になっている」と明かした。

 また、ウォルマートでSNSマーケティングを担当するサラ・ヘンリー氏は25年7月、「ウォルマート・クリエイターは、ローンチ以来、驚異的な成長を遂げてきた」と総括した。具体的な数字への言及はなかったものの、サイト訪問者が実際に購入に進むコンバージョン率において、かなり手応えがあることをうかがわせるものだ。ウォルマートにおいて、ウォルマート・クリエイターはインフルエンサーやクリエイターを活用する次世代型ビジネスにおける中心的な存在になっているようだ。

 インフルエンサーやクリエイターが関わる米国内の市場規模は24年に2500億ドル(約36兆7000億円)と推定されたが、27年には5000億ドル(約73兆5000億円)に達するとフォーブスは予想している。インフルエンサーやクリエイターのプロモーションへの活用は、リテールメディア戦略の要のひとつになっているのである。

 米ホームセンター大手のロウズ(Lowe’s)や米家電販売大手のベストバイ(Best Buy)もウォルマート・クリエイターに似たようなプラットフォームを立ち上げた。そのほか、アパレル企業のアメリカン・イーグル(American Eagle)がインフルエンサーやクリエイターが参加するアフィリエイトコミュニティを設立するなど、追随する企業が相次いでいる。このように、新たな世代の客層の取り込みをめざす米小売各社の中で、ウォルマート・クリエイターのような取り組みは「標準」となりつつある。

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