米国では現在、生成AIを活用して商品探しをする消費者が急増中だ。2024年のホリデーシーズンにAIチャットボット経由の小売サイトへのトラフィックが急増したのをはじめ、年末商戦後も利用者増加が止まらない。これは、従来の顧客による能動的なネットショッピングを根本から変えるものになるのだろうか。また、従来型ECサイトと生成AIサイトにおけるエクスペリエンスには、どのような違いがあるのか。25年の米AIショッピングを占う。
小売のAIトラフィックは8カ月で1200%の伸び

ウェブ分析企業の米アドビ・アナリティクス(Adobe Analytics)が3月に発表したところによると、24年7月を起点とした、25年2月までのAIチャットボット経由の小売サイトへのトラフィックの増加は、8カ月間で1200%と大幅な伸びを示した(上図)。
この期間で興味深いのは、11月から12月にかけてのホリデーシーズンには増加が横ばい傾向であったのに対し、年末商戦終了後の1月から2月にかけて、増加率が加速している点だ。これは、生成AIを使ったネットショッピングの拡大が一過性のものではなく、本格化していることを示唆するものだ。
さらに注目されるのが、AIチャットボット経由のECサイトでの商品購入率(コンバージョン)の急激な増加である。7月にはAIショッピングは普及率が低く、43%もあったAI(緑線)と非AI(白線)のコンバージョン差は、2月には9%まで縮まった。
多くの消費者がAI経由のネットショッピングに慣れ親しんで、利用を本格化させている様子がわかる。
では、実際の顧客体験はどのようなものなのだろうか。米小売大手のターゲット(Target)では、24年の年末商戦で玩具に特化したAIアシスタントを導入した。
この動画リンクで見られるように、買物客はまず「2~4歳」など子供の年齢層を指定する。すると、この年齢層に人気のおもちゃのカテゴリーである「創造的な思考を育てる」「感覚の発達」などの候補が表示されるので、プレゼントの対象の子供に合ったカテゴリーを選択し、「プレゼントを探す」ボタンを押す。
それにより、AIが選んだ玩具の候補が表示される仕組みだ。これは、従来のネットショッピングのインターフェースとあまり変わらないが、「裏方」のAIアルゴリズムが機能しており、より顧客の探している商品に近い候補を表示するようになっている。
また、ジャーナリストのローレン・グッド氏がECサイトではない、生成AIサイトで友人などへのプレゼント探しをした体験記が米『Wired』誌に掲載された。業界で先行するOpenAIが提供するChatGPTでは、「お菓子やパンづくりが好きな友人へのプレゼントは何がいい?」と質問すると、「高級紅茶とお菓子の詰め合わせはどうですか」と回答し、「では、適当なものを選んで」と指示すると、複数のECサイトを巡回して適切な候補を提示したという。
このように、過去2年ほどで急激に進化した生成AIによって買物体験の質が向上したことで、実際の利用者が増加していると考えられる。
パーソナライズされたAI会話アシスタントの導入も進む
前述のアドビ・アナリティクスの調査では、5000人の米消費者を対象に聞き取り調査も実施しているが、回答者の39%が「実際にAIショッピングを体験したことがある」と答え、53%が「25年中に試してみたい」と述べたことは特筆される。
実際にAIで買物をした回答者の目的を複数回答でたずねたところ、55%が商品調査と答えた。次いで、47%がおススメ商品を聞くため、43%がセール品を見つけるため、35%が贈り物のアイデアを得るため、35%がユニークな商品を見つけるため、そして33%が買い物リストを作成するためと回答している。
小売側の視点からこの結果を分析すると、自社サイトで生成AIチャットボットを提供する場合に、どのようにAIを訓練すべきかの示唆が得られる。AIアシスタントは、顧客と「対話」するため、商品に関するデータや評価、用途、どのような場面でのプレゼントとして適しているかなど、細やかな知識と情緒的な直観に基づく候補の提示が求められている。
そのため、自社サイト以外の生成AIサイトに対し、それぞれの生成AIエンジンが自社商品について正確で常に新しい情報を質問者に返せるよう、自社商品に関する情報をアップデートし続ける必要がある。つまり、「従来型のオンライン商品カタログの提供から、AIチャットボットが会話の資料として参照できるだけのデータを、AIによる会話向けに編集・公開しておく必要があるのだ。
こうした中、米アマゾン(Amazon.com)は、アプリを利用するユーザーが100以上のカテゴリーの商品群から自身の興味、予算上限、好みに関するプロンプト(命令)を入力すると、インタレスト(Interests)と呼ばれるAIアシスタントがユーザーが探していると思われる商品を探し出して提示するサービスを試験的に導入している。
インタレストは、「コーヒー党向きの焙煎用品を探して」「有名ブランドがサマーシーズン向けに出した新着のナチュラルメークの商品を教えて」など人間と会話する要領でプロンプトを入力するユーザーの要望に対応して、「対話」をしながら候補を示したり、新着商品や値下げの通知を送ったり、欠品の在庫が入荷すれば知らせたりすることができる。
米国では25年に、こうしたAIショッピングの導入が加速する年になろう。