米国ドラッグストアチェーンの2024年は、①インフレによる異業種ディスカウント競合への顧客流出による売上減、②各社で相次ぐ実店舗の大量閉店、③医薬品の供給不足や労働力不足、に見舞われた厳しい一年であった。こうした中、25年には第2次トランプ政権による医療保険政策の変更や規制緩和、デジタル薬局の台頭など、不確実性が増すと考えられる。大手各社にはどのような対策があるのだろうか。

売上は伸びるが問題が山積

米国の市場調査企業、IBISWorldの推計を見ると、米国の製薬およびドラッグストア業界は、高齢化による医薬品やパーソナルケア製品の需要の伸びが売上増を支えてていることがわかる。同業界の24年の売上は、6297億ドル(約98兆4583億円)に達し、過去5年間の平均成長年率は4.5%だった。
しかし、ドラッグストアチェーン業界2位のウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(Walgreens Boots Alliance:以下、ウォルグリーン)の株価は、24年の1年間に64%も下げており、同業界に限っては、逆風が吹いていることがわかる。
ウォルグリーンにとっては、新型コロナウイルスワクチンに対する需要減、インフレで生活防衛に走る消費者の裁量支出の低下が大きく影響を与えている。また、21年に街角救急診療所チェーンのビレッジMD(VillageMD)株式の保有を30%から63%に倍増させたものの、診療所の垂直統合による収益効果が所期のレベルに達しなかった。このため、損失が膨らんだのである。
そのほかにも処方薬販売における不正請求や、麻薬性鎮痛薬オピオイドの大量消費を助長したとされる訴訟、さらに、都市部店舗における万引きや盗難による損失の拡大と、問題が山積。その結果として、現場における働き手不足に悩まされるなど、抜本的な経営の改革が求められる事態となっていた。そして、ウォルグリーンは、24年に全米8500店のうち、およそ450店を閉店した。
業界第1位のCVSヘルス(CVS Health)も類似の理由で不採算店の閉店を進めており、24年に全米9000店のうち300店を閉鎖。22年からの累積閉店数は900店に上る。
CVSヘルスは全米1万近くの店舗(23年当時)の内、1割以上の1100店で簡素化された低価格医療を店舗で提供するミニ診療所を開設したが、パンデミック終焉の時期と重なり、収益化ができなかった。また、診療のため来店する客がついでに買い物もしてくれるという目論見も、外れたようである。
そうしたクリニックで戦略的なターゲット層として重要な地位を占めるのが、老齢で病気になりやすい65歳以上のシニア層であり、米国で進行する高齢化による需要増が見込まれたのだが、何らかの理由でミスマッチが起きたと思われる。
加えて、24年には、サプライチェーンの混乱やジェネリック(後発)医薬品会社の経営難などが原因で、深刻な医薬品不足が業界規模で続いた。このため、売上機会の逸失を招いたのであった。
悪材料は出尽くした?25年は店舗小型化で勝負か
このように、ドラッグストア業界では一朝一夕に解決しにくい構造的な課題が山積している。一方で、悪材料は24年中に出し切ったとの見方も一部で出ており、25年は復調に転じるかが注目されている。
まず、ウォルグリーンは収益性改善の新たな試みとして、従来型店舗よりも売場面積が小さく、品揃えも売れ筋に絞ったフォーマットを100店ほどオープンしている。これらの小型店では、収益率の高いプライベートブランド商品の割合が高く、経営陣から期待されている。その成否は25年に明らかになろう。
一方、EC大手のアマゾンは処方薬宅配を拡大しており、25年に、新たに20都市で即日宅配を提供開始する予定だ。これにより、米総人口の45%が同サービスを利用できるようになるため、ドラッグストア業界でも対抗のサービスを充実させていくと思われる。
とくに、近年のドラッグストア閉店ラッシュにより、1600万人が薬局のない地域に住んでいると推定される。よって、今後、ドラッグストアチェーンは、閉店した地域における処方薬宅配を強化すると見られる。
この傾向の背景として、ドラッグストアチェーンを悩ます薬剤師不足が挙げられる。多くの薬剤師が定年退職して人材の需要が増加する一方で、大学の薬学部への入学志願者数が減り続けているからだ。人材不足のためドラッグストアにおける薬剤師の負担は重くなっており、各社が抜本的な対策を打ち出せるかが焦点となりそうだ。
翻って、1月の第2次トランプ政権発足により、厚生長官に指名された予防ワクチン懐疑派のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏の人事が承認されれば、ドラッグストアが指定接種場所になっている一部のワクチンの売上が減少することが予想される。また、医療保険政策で何らかの変更が実施される可能性もある。
一方で、同氏は「米国を再び健康にする(Make America Healthy Again)」をスローガンにしており、ドラッグストアにおける健康食品やサプリメントの売上が伸びる可能性もある。
いずれにせよ、米人口の高齢化でドラッグストア市場の潜在的な規模は拡大してゆく。そのため、他業種からの参入を上手くかわしながら、創意工夫で利潤を高められるチェーンが「勝ち組」として残りそうだ。