アングル:報復関税が直撃、米国産ウイスキーのEU輸出苦境に

ロイター
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ウイスキー工場の様子
8月18日、欧州連合(EU)が昨年6月、トランプ米政権の通商政策への報復として米国産ウイスキーに25%の関税を適用すると、ペンシルベニア州の蒸留酒メーカー、マウンテン・ローレル・スピリッツの売上高は一夜にして10%も減少した。写真は1日、同社工場の機材を点検するミハリク氏(2019年 ロイター/Jonas Ekblom)

[ブリストル(米ペンシルベニア州) 18日 ロイター] – 欧州連合(EU)が昨年6月、トランプ米政権の通商政策への報復として米国産ウイスキーに25%の関税を適用すると、ペンシルベニア州の蒸留酒メーカー、マウンテン・ローレル・スピリッツの売上高は一夜にして10%も減少した。欧州の販売業者がマウンテン・ローレルの製品の仕入れを取りやめたためだ。

トランプ政権が打ち出す輸入関税の対象となった国・地域は、米国の蒸留酒メーカーとバーボン、ウイスキーを対抗措置の標的にしている。このため米蒸留酒業界は、政権が検討中の新たな関税によって欧州市場で自分たちの製品に課せられる税率が一段と上昇しかねないと、戦々恐々の状態にある。

マウンテン・ローレルを経営するハーマン・ミハリク氏は新作のウイスキーを試飲しながら「ぎりぎりでもうけていた事業の利益がなくなりつつある」と嘆いた。

米蒸留酒協会のデータによると、昨年6月から今年にかけて欧州向け米国産ウイスキーの輸出は21%も落ち込み、業界はその穴埋めに苦戦している。

EUが報復関税を導入する前の1年間で、米国から欧州へのウイスキーとバーボンの出荷額は7億5700万ドル(約800億円)に達したが、昨年6月から今年6月までは5億9700万ドルにとどまっている。米国のウイスキーの昨年の売上高は計36億ドルだが、輸出がかなりの比重を占める。

同協会は、輸出される米国産ウイスキーの63%がEUや中国、トルコ、カナダ、メキシコからの貿易上の報復対象になっていると説明した。

さらに米通商代表部(USTR)は、EUによる航空機大手エアバス<AIR.PA>補助が不当だとの15年がかりの論争で、次の一手として欧州産の蒸留酒とワインに最大100%の関税を課す準備を進めている。

そうした米国とEUの貿易摩擦によって「米国のウイスキーがとばっちりを受けている」と6日に開かれたUSTRの公聴会で指摘したのは、米蒸留酒協会のクリス・スワンガー最高経営責任者(CEO)だ。同氏は、EUからの報復でより高い関税をかけられることを業界が懸念しているとして、米政府に新たな関税を導入しないよう訴えた。

米蒸留酒協会は、EUとの摩擦が激化すれば、飲料・アルコール製造・接客の各セクターで1万1200人─7万8600人の雇用が失われる恐れがあると警告している。

外れた目算

ウイスキー工場の様子2
8月18日、欧州連合(EU)が昨年6月、トランプ米政権の通商政策への報復として米国産ウイスキーに25%の関税を適用すると、ペンシルベニア州の蒸留酒メーカー、マウンテン・ローレル・スピリッツの売上高は一夜にして10%も減少した。写真は1日、同社工場の機材を点検するミハリク氏(2019年 ロイター/Jonas Ekblom)

世界的に見ると伝統的な方法で製造された蒸留酒やカクテルの需要は急増しているが、米国産ウイスキーのブームには関税によって幕が下ろされつつある。ケンタッキー蒸留酒協会によると、人気のケンタッキー・バーボンの生産量は昨年170万バレルと、1972年以来の高水準に達していた。

スワンガー氏は6日の公聴会で、関税によって、45州の輸出業者など協会の多くの加盟者が既に新規採用と事業拡大計画を打ち切り、利益率が打撃を受けていると明らかにした。

バージニア州のカトクティン・クリーク・ディスティリングを経営するスコット・ハリス氏もそのうちの1社だ。EUの報復関税導入に伴う価格高騰により、期待していた欧州需要が幻に終わったため、数千もの空のボトルを抱えて途方に暮れている。

カトクティンは売上高の少なくとも1割を欧州で稼げると目論んで、欧州サイズ(700ミリリットル=ml)のボトルを大量に購入したところで、関税が直撃。米国市場の標準は750mlのため、700mlのボトルは使い道がなくなった。

同社の現在の欧州における売上高はほぼゼロで、ごくわずかに販売している分も、値段に敏感な欧州顧客向けの販売価格に関税コストを転嫁したくないと考えているため、相当な赤字になっている。

ハリス氏は「われわれは販売業者1社と契約していたが、彼は電話しても折り返しの電話をくれなくなった。われわれは英国とフランスに参入しようと必死に努力していたのに、今や話を聞いてくれる販売業者を見つけられない」と頭を抱えた。

ロイターが取材した他の複数の米蒸留酒メーカーも、EUの報復関税導入前はスコットランドやアイルランドのウイスキーの方が欧州では全般的に価格が高く、割安な米国産の引き合いが強くなっていたと話した。しかし関税で条件が逆転すると、欧州の販売業者は米国のウイスキーやバーボンへの興味を失った。

ケンタッキー州の蒸留酒メーカー、ジェームズ・E・ペッパー・ディスティリングを経営するAmir Peay氏は、以前の欧州市場は比較的楽に利益を得られる場所で、同社は参入に向けて多額の投資をしたが「今の市場の状況は極めて期待外れとなっている」と述べた。

前出のマウンテン・ローレルの場合、米国で新たな市場を開拓して欧州の販売減を取り戻そうとしている。ただ全米50州の全てで州ごとの免許を取得した卸売業者が必要になるため、市場開拓も非常に骨が折れる。

ごく一部の卸売業者は複数の州にまたがって事業を展開できているとはいえ、ミハリク氏は50通りの契約書が必要になることが多い現状に不満を募らせている。

一方、欧州以外の外国市場は参入が困難で、中小の蒸留酒業者では多額の投資に見合うだけの妙味はない傾向にある、といくつかの企業はみている。

大手業者でさえも関税への対応を余儀なくされている。世界で最も人気の高い米国産ウイスキー「ジャックダニエル」を製造するブラウンフォーマンは、EUの報復関税が原因で1億2500万ドルの損失が生じた。

ローソン・ホワイティング最高経営責任者(CEO)は6月、報復関税は米国のウイスキーの60%を生産している同社を「かなり狙い撃ち」にした形になったと指摘した。

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