昨今、中国において、OMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの統合)を推進するニューリテール(新小売)戦略が、大きな転換期を迎えている。5月31日にはアリババ(Alibaba)のOMO型生鮮スーパー「盒馬鮮生(フーマー・フレッシュ)」が初めて店舗を閉鎖。さらには、京東(JD.com)や美団(Meituan)が展開するニューリテール店舗も店舗戦略の見直しを迫られている。その背景と今後の戦略について考察してみたい。
フーマー・フレッシュの店舗閉鎖が意味するものとは?
フーマー・フレッシュは、ここまでニューリテール戦略における“成功の象徴”として店舗数を順調に伸ばし、5月1日に北京に開業した「万優汇(ワンヨウフ)店」をもって、合計店舗数は150に達した。順風満帆に見えるフーマー・フレッシュだが、その陰で、5月31日には江蘇省蘇州市にある「昆山新呉悦広場店」をひっそりと閉店させている。同社による既存店の閉鎖は初めてのことだ。「たかが1店舗を閉鎖したくらいで、そんなに目くじらを立てる必要はあるのか」と思われるかもしれない。しかし、どうやらこの閉店は、フーマー・フレッシュ、ひいてはニューリテールそのものの大きな戦略転換を意味しているようなのである。
フーマー・フレッシュは、上海や深センなど大都市の比較的立地条件のよい場所に出店し、そこでの成功事例を各地方都市の店舗に移植するという経営戦略のもと、店舗拡大がなされて来た。今回閉店した蘇州の店舗も、周辺に製造業の拠点が多く、富裕層も多数居住しており、大都市の店舗のビジネスモデルがそのまま通用すると考えらえていた。しかし蓋を開けてみれば、採算の確保に苦戦。結局、閉店に至ったのである。
実は、こうした動きはフーマー・フレッシュだけでなく、同様にニューリテール戦略を推進する企業でも見て取れる。たとえば、同じくOMO型の生鮮スーパー「7FRESH」を運営するEC大手の京東では4月に、7FRESHの事業責任者である王笑松氏が、業績低迷を理由に職を解かれている。また、美団が展開するニューリテール店舗「小柄生爽」でも、全5店舗のうち北京市内を除く地方店舗2店が閉鎖されている。
次のページは
一気に縮小にはならない!?再成長のカギはここにある
再成長のカギは「地域対応」に?
とはいえ、ニューリテール戦略がこのまま縮小の一途をたどるかと言うと、そうではなさそうだ。
フーマー・フレッシュは4月上旬に新経営戦略を発表し、現在展開している「フーマー・フレッシュ」とコンビニ業態の「フーマーF2」に加え、「盒馬菜市」「盒馬MINI」「盒馬小站」という3つの新フォーマットを開発すると明らかにした。顧客ターゲットを細分化し、より地域属性やユーザー属性に向き合った店舗運営に舵を切るというのである。
それに先立つ3月28日、フーマー・フレッシュは上海五月花広場に、3つの新フォーマットのうち、フーマー・ツァイシーの1号店を開業している。生簀(いけす)で販売する高質のシーフードなどは売場から排し、盒馬鮮生(フレッシュフーマー)よりも廉価な商品を展開。従来の高級路線から離れ、庶民の日常の食需要を満たすような店舗コンセプトを導入、価格に敏感な層を取り込む戦略をスタートさせている。
このほかの盒馬MINIや盒馬小站についてはまだ実店舗がオープンしておらず実像はつかめないものの、それぞれ大都市の郊外や中規模都市での展開が計画されている。これらについても、標準フォーマットの店舗では取り込めていなかった、新たな顧客層の獲得をめざした運営戦略をとるようだ。
フーマー・フレッシュをはじめとするニューリテールを提唱する店舗フォーマットは従来、大都市を主戦場とし、デジタルリテラシーの高い若年層を取り込むことを意図して開発された。しかし今後は、各地域や顧客属性に合わせたフォーマットが複数開発されるという流れになりそうだ。店舗閉鎖のニュースでネガティブな見方もなされるニューリテール界隈だが、今後の展開が非常に楽しみである。