[ロンドン 14日 ロイター] – 欧州の上場企業は今年、米国で計1兆2000億ユーロ(1兆3000億ドル)もの売上高を計上する見通しだ。世界的な貿易摩擦の高まりや企業利益と経済成長の鈍化を考えると、こうした欧州企業の立ち位置がいかに危険かがはっきりと分かる。
アナリストや投資家の見立てでは、売上高ベースで判断すれば欧州と米国の貿易摩擦が激しくなった場合、米国企業よりも欧州企業の方が打撃が大きいという。
トランプ米大統領は18日までに輸入自動車・自動車部品に追加関税を課すかどうかを決める予定だ。中国との対立再燃に関心を向けることで、自動車関税は先送りするかもしれないが、もしかすると中国と欧州を相手に2正面で貿易戦争を仕掛ける可能性もある。いずれにせよ自動車関税が導入されれば、欧州が誇る自動車セクターにとっては新たに重大な脅威がもたらされかねない。
欧州では景気が減速し、イタリアなど財政赤字に苦しむ国もあるため、米国との貿易戦争が勃発すると主要企業が受ける痛手はかなり深刻化し、中国がこれまで示してきたような耐久力を欧州が発揮するのは難しいのではないだろうか。
ピクテ・ウェルス・マネジメントの資産配分責任者クリストフ・ドネー氏は「貿易問題では中国よりも欧州を巡る懸念の方がずっと大きい」と話した。
アムンディ・アセット・マネジメントによると、MSCI欧州株指数構成企業の平均的な米国売上高は約20%で、MSCI米国株指数構成企業の欧州売上高は平均14%程度だ。
<逆風受ける自動車>
トランプ氏の保護主義的政策がマイナスになる典型的なセクターとしては、特に欧州の自動車メーカーが挙げられる。
ムーディーズの分析では、25%の自動車関税が発動されるとドイツの国内総生産(GDP)と輸出収入はそれぞれ0.2─0.3%ポイント下振れる。ドイツの国別自動車輸出で米国は13%を占めるという。
売上高を尺度にすれば、米国で453億ドルの収入を稼いでいるフィアット・クライスラーの危険度は大きい。もっともフィアットをはじめとする多くの欧州勢は、米国に生産拠点を持っているので関税の影響を幾分和らげられる。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの英投資事務所副責任者キャロライン・シモンズ氏は、欧米の貿易摩擦がこれ以上ひどくなるとハイテク、エネルギー、工業などが最も打撃を受けると予想した。
これらのセクターの欧州企業の米国売上高比率は平均で10─20%。UBSは、ユーロ圏において自動車を含む一般消費財セクターをアンダーウエートにしている。
<ヘルスケアに波及も>
全欧州をカバーするSTOXX600指数の構成企業で平均して米国売上高比率が最も高いのはヘルスケアだ。
リフィニティブの分析では、欧州のヘルスケア企業は今年米国の合計売上高が約1333億ユーロに上る見通し。
今のところヘルスケアは欧米の貿易摩擦の影響は受けていないものの、一部の投資家は今後両者の関係が悪化するとヘルスケアも無傷ではいられないと心配している。
アムンディの株式ストラテジスト、イブラ・ウェイン氏は「平時であればヘルスケアセクターはディフェンシブ銘柄とみなされているだけに、米国と欧州が貿易戦争に入れば二重の意味で失望させられるかもしれない」と警戒する。
個別企業で米国売上高比率が高いのはBTGやBBバイオテック、フレセニアス・メディアカル・ケアなどで、67─90%に達する。