ワインやサーモンで人気を集める南米の国チリ。地球上で日本の対極に位置し、壮大な自然に恵まれた同国は、日本ではまだあまり知られていないが人々を魅了する「食」の宝庫だ。3月末までチリに滞在していた筆者が、日本でも店頭での提案に生かせそうなチリの食品やメニューをレポートする。
南アメリカ南部に位置するチリ共和国は、赤道近くから南極まで南北に約4300kmと細長く伸びた国土の形状であることから同じ国でもエリアによって自然環境が大きく異なる。また、東にはアンデス山脈、西には太平洋が広がり、山と海の両方の自然に囲まれている。この豊かなの自然の恵みから生み出されるのが良質なチリの食材だ。
近年日本ではワインやサーモンが食品スーパーにも多く並ぶようになり、低価格でありながら高い品質で支持を集めている。しかし、日本とチリは直線距離で約1万7000kmと遠く離れていることもあり、日本ではまだあまり知られていない食材や、食べ方が多く存在する。現地の食品スーパーやレストランに実際に足を運んで見つけた、次に日本でも話題を呼びそうな食材やメニューを厳選して紹介したい。
①アサイーを超えるスーパーフード!
「マキベリー」
チアシードやアサイー、キヌアなど、近年多くの食品スーパーで見かけるようになったスーパーフード。チリを含む中南米が原産のものが多く、健康や美容に寄与する食品として世界的に注目を集めている。
そんなスーパーフードの産地でもあるチリで高い支持を得ているのが「マキベリー(Maque Berry)」だ。チリ南部のパタゴニア地方に自生しているホルトノキ科の植物の果実で、ビタミン、ミネラル、ポリフェノールのほか、若さを保つカギとされる抗酸化作用がアサイーの倍以上あるといわれている。チリの首都サンティアゴ在住のワーキングマザーであるナタリア・スプルペダさん(38歳)によると「とくにチリの女性たちのあいだで美容効果が高いものとして親しまれている」そうで、サンティアゴ市内にある食品スーパー「Jumboコスタネラセンター店」(以下、コスタネラセンター店)では、マキベリーの果汁ドリンクが品薄状態になっていた。ドリンク以外に、粉末状の果実をスムージーやヨーグルトに入れて食べることも多いようだ。
筆者も飲んでみたが、味はブルーベリーのようで癖がない。日本でもすでに一部の著名人が愛飲しSNSでアップする動きも出ており今後、人気が高まっていきそうだ。
②ドライフルーツコーナーに加えたい!
「クランベリー」
ドライフルーツは、健康志向の高まりなどからここ数年で青果売場の一角で当たり前のようにコーナー化されるようになった。チリでも日本同様に消費量が増えている。そんな中、日本ではあまりみかけないが、チリでよく食べられているのが「クランベリー」のドライフルーツだ。
チリはクランベリーの産地であり、ジュースやジャムなどにしてよく食べる。そのためドライフルーツとしても販売されており、コスタネラセンター店では売場の目立つ場所で訴求されていた。
食感と味は、干しブドウよりも皮がしっかりしていて、甘酸っぱい。実は筆者は干しブドウの独特の風味を好まないのだが、クランベリーのドライフルーツはおいしく食べることができた。ドライフルーツコーナーの品揃えに加えてほしい果実だ。
③鮮魚売場の新メニューに!
「セビーチェ」
チリでは隣国のペルーの料理が人気だ。サンティアゴの街中にも至るところにペルー料理店があり多くの人で賑わっていた。そんなペルー料理のなかでもチリ人が好んで食しているのが「セビーチェ(ceviche)」だ。
魚介類のマリネのことで、角切りにした刺身やグリルした魚に、みじん切りにした玉ネギとトマトを加えてレモンをたっぷり絞り、最後にパクチー、唐辛子、オリーブオイル、塩で味を整えるだけで完成する。
写真は、サンティアゴの人気ペルー料理店「la mar」で食べたセビーチェ。白身魚やエビ、タコと、パクチー、レモン、唐辛子の組み合わせが絶妙で「また食べたい」と思ったメニューだ。
最近食品スーパーの鮮魚売場では「アクアパッツァ」や「カルパッチョ」など海外のメニュー提案が積極的に行われている。セビーチェは調理方法も難しくないため、新たな食べ方として提案できそうだ。
④チリならではのブドウ品種
「カルメネール」
随分日本に定着してきたチリ産ワインだが、チリならではの赤ワインのブドウ品種の存在を知っている人は少ないはずだ。その名は「カルメネール(Carmenere)」。もとはフランスのボルドー地方で生産されていて害虫の影響で絶滅したとされていたが、1994年にチリで再発見されて話題となった品種だ。現在では主にチリや欧州のほんの一部地域でしか生産されていないという。コスタネラセンター店でも、カベルネ・ソーヴィニヨンをはじめとしたほかのブドウ品種と並んで大きくコーナー化されていた。
写真はチリ・サンタクルスにあるワイナリー「Viu Manent」で購入したカルメネールを使ったワイン。味は、酸味が少なくてコクと深みがあり「しっかりしているが飲みやすい」という印象だ。「カルメネール」を使用したチリ産ワインは日本でも多く販売されているが、チリならではのブドウ品種を打ち出した提案はあまり見かけない。チリ産ワインの特徴の1つとして打ち出せば、来店客の興味を引けそうだ。
⑤健康志向で人気上昇の豚肉部位
「マラヤ」
最後は筆者がチリ滞在中に食べた肉料理のなかで最もおいしいと思ったメニューを紹介したい。「マラヤ(Malaya)」とは豚バラ肉なかでも筋肉の部分のこと。チリでは5年ほど前から健康志向の高まりなどを背景に、脂身の少ないこの部位だけをカットして売られるようになり人気を集めている。食べてみると「豚トロ」にさらに弾力を加えたような食感が印象的だ。写真のように、チーズやパプリカ、玉ネギ、にんじんなどを乗せてピザのように焼き上げた調理方法がおすすめだ。「マラヤ」は日本の食品スーパーではクローズアップされていない部位であり、是非新たな提案として取り入れてほしいと感じた。
滞在中に感じたのは、チリには日本人にあまり知られていない食品やメニューが数多く存在するとともに、その味は日本人の嗜好に合いそうなものが多いということだ。南米の事情に詳しいプロマー・コンサルティングの林田淳子氏によると「チリは他国に比べて昔から健康志向が高く自然の恵みでつくられたものを好む」そうで、現在の日本人の食の傾向にも即している。店頭提案の幅を広げるために、一度チリの「食」に注目してみてはいかがだろうか。