[ニューヨーク 26日 ロイター] – 米ゴールドマン・サックス<GS.N>は米アップル<AAPL.O>と組んでクレジットカード「アップルカード」を発行すると発表し、一般消費者向け事業へとさらに一歩踏み込んだ。数十億人の「iPhone(アイフォーン)」利用者とつながれる可能性も秘めている。
しかし提携カードの市場は競争が激しく、小売業者が優位に立つことが多い。消費者向け事業を始めたばかりのゴールドマンがクレジットカードローンに手を広げるのを、株主がどこまで許容するかは疑問、との見方もある。
ゴールドマンは2016年、オンライン銀行「マーカス」を設立して以来、消費者向け事業に力を入れてきた。
アップルのウェブサイトによると、アップルカードは年間手数料や延滞手数料を設けず、金利は年13.24─24.24%と、顧客によってばらつきが生じる。
金融危機後の規制により、銀行にとってクレジットカード事業の妙味は増している。他の資産に比べ、引き当てを義務付けられる資本金が少ないからだ。
今回と似た提携に関わったある人物は「非常に緩い信用環境が続いているため、小売業者の立場が数年前に比べて強まっている」と説明。顧客審査はカードを発行する銀行が行うが、その際に小売業者が持つ顧客データを利用することが多いと話した。
ゴールドマンのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は25日の従業員向け電子メールで、アップルカードは消費者向け事業の拡大における「大きな一歩」だと述べた。
同行は、伝統的に得意としてきた債券トレーディングなどの収入が縮小しており、ソロモン氏はこれまで、消費者向け事業は増収・コスト削減計画の重要な部分だとしてきた。
しかしUBSのアナリスト、ブレナン・ホーケン氏によると、景気後退が近いとされる時期だけに、ゴールドマンが無担保の消費者向け与信事業を拡大することを、多くの投資家は不安視している。
ソロモン氏のメールによると、マーカスの預金は現在、英米合わせて450億ドル、個人向けローンは50億ドルに達する。
ゴールドマン全体のバランスシートに比べれば個人向けローンは小さいが、消費者向け事業は預金獲得にとどめてほしいというのが投資家の願いだ、とホーケン氏は説明。「人々は、ゴールドマンにはゴールドマンのままでいてほしい」という。
ストーンキャッスル・ファイナンシャル・コープのジョシュ・シーゲルCEOは、アップルカードの金利幅が広いことに触れ、信用度が低い顧客も一部受け入れる可能性があると指摘する。ただ、その信用リスクは必ずしも帳簿に乗せず、証券化するかもしれない。ゴールドマンが突然、無担保の消費者向け与信に突き進むなど、想像できない。今の信用サイクルを考えるとなおさらだ」
信用リスクはさておき、ゴールドマンが世界最大級の企業と提携してクレジットカードを発行することは、消費者市場でシェアを広げるチャンスだとアナリストは見ている。
アップルはウェブサイトに、カードは「銀行ではなくアップルがつくる」と記しているが、カードの裏側にはゴールドマンのロゴが記載される。
オートノマス・リサーチのパートナー、レックス・ソコリン氏は「ゴールドマンにとって、これは自らをねじ曲げ過ぎずに大衆に広がる戦略だ」と話した。
ゴールドマンはこの記事についてコメントを控えた。
(Elizabeth Dilts記者 Anna Irrera記者)