世界最大級の小売業界向けイベントである「ShopTalk(ショップトーク)2022」が2022年3月27日~30日にかけて、2年ぶりにラスベガスで開催された。「Retail ‘s Big Reunion(小売業界の大同窓会)」と銘打った本イベントは参加者1万人以上、650社のスポンサーが名を連ね、過去最大規模の開催となった。小売企業、アナリスト、投資家など世界中の小売関係者たちの熱気に溢れ、今まで以上の賑わいを見せた。イベントの概要と注目を集めた議論および、イベントを通して浮かび上がったキーワードについて、海外小売の動向に詳しい日商エレクトロニクスUSAの榎本瑞樹氏が解説する。
構成=崔順踊(リテールライター)
「ショップトーク」とは何か
ShopTalk(ショップトーク)とは、世界の小売業界トップ企業・リーダーが集結し、最新のテクノロジーや先端事例などさまざまなテーマについて議論・展示・商談を行い、投資家やスタートアップなども含むステークホルダーたちが一挙に集う世界最大級の小売業界向けイベントだ。
元々は「Money20/20(マネー・トゥエンティ・トゥエンティ)」というフィンテックに関する世界的なイベントの中で行われていた小売セッションが独立したもので、2015年よりラスベガスで開催されている。
小売業界向けの世界的なイベントとして日本でも認知されているNRF(全米小売業協会)の「Retail’s Big Show」と比較すると、ショップトークではより踏み込んだ内容が議論されている印象だ。また、スタートアップとVCの参加者が多いところから具体的なテクノロジーについて語られているのも特徴の1つだ。
世界的なパンデミックの影響によって、過去2年間、ショップトークは開催されていなかった。今回開催地となったネバダ州では2022年2月10日より公共スペースでのマスク着用義務が解除されていたこともあり、イベント参加者のほとんどはマスクを着用しておらず、パーティなども行われていた。275人が講演したセッションは、すべて対談形式で行われた。展示会場にも多くの人が足を運んでおり、賑わっていた。
“NRF以上”の盛り上がりとなった理由
今回のショップトークが過去最大規模となった要因としては、コロナウィルスの感染拡大状況が比較的落ち着いていたことが挙げられる。今年1月14日に開催されていたNRFではニューヨークにおいてオミクロン株がピークになっていたこともあり、展示出展のキャンセルが相次いだと聞いている。本イベントにおいては、時期的にも同様のキャンセルなどはほとんどなく無事に開催された。久々のリアルな開催となったことで、人々が押し寄せ盛り上がりを見せた。
またショップトーク自体のブランド認知が向上していることも大きい。充実したネットワーキングによって、ここ数年で「ショップトーク」の名が広く知れ渡ってきている。さらにラスベガスというアクセスしやすい立地で開催されたのも今回の盛り上がりに大きく寄与したとみられる。
注目基調講演を解説、インスタカート、サムズクラブが登壇
ここからはショップトークでとくに注目を集めていた講演について見ていこう。メインステージで行われた基調講演はGoogleやUber、Revlonなど12の企業からCEOやPresidentが登壇した。ここではその中でもとくに興味深かった3社について紹介したい。
まず挙げたいのが、インスタカート(Instacart)だ。同社からは7カ月前にCEOに就任したFidji Simo氏が講演を行った。インスタカートは過去10年間、オンライン買物代行を主軸としてきたが、ここ3~4年は広告事業で大きな成果を上げている。
直近では、上場の延期や評価額の引き下げなどが発表されており、この点について「長期的に優れたビジネスを構築し、小売業を支援することに集中したい」という方針を明確にした。そのために「Instacart Platform(インスタカート・プラットフォーム)」の拡充が必要であり、優秀な人材を確保しなければならないと意思表示をした。このインスタカートの講演については、次回の記事で詳しく解説する。
続いてウォルマート(Walmart)傘下の会員制スーパーマーケットであるサムズクラブ(Sam’s Club)からはCEOのKath McLay氏が登壇した。同社は会員制スーパーマーケットではコストコ(Costco)に次ぐ米売上第2位のチェーンであり、新規会員獲得数も過去最高となっている注目企業だ。
講演では、17年より開始した「Scan & Go」「カーブサイド・ピックアップ」などの取り組みが、ミレニアム世代を中心に受け入れられていることなどが語られた。高品質・低価格なメンバーズマークブランドの商品情報をアプリから提供、店頭でのデモンストレーションや店舗内の改装、ロゴの変更などによってブランドの若返りに成功しているのも印象的だった。
10代の若者向けアパレルを販売しているPacSun(パックサン)からはPresidentのBrieane Olson氏が登壇した。同社はメタバース、NFT(非代替性トークン)に積極的に取り組んでおり、「Roblox(ロブロックス)」「Twitch(トゥイッチ)」などのゲーム配信プラットフォームと連携しデジタルアイテムを販売している。
たとえば、NFTでは同社のマスコットキャラクターを販売する。メタバース上で展開している「PACWORLD」というデジタルモールでは、自分のショップ内でNFTのコレクションをしたり、それらを紹介したりすることができる。これらの取り組みの目的についてBrieane Olson氏は「消費者との交流とそれによる顧客の理解、ブランドの確立」であるとし、新しい顧客接点の在り方について示唆を得られた。
ショップトークから浮かび上がった6つのキーワード
本稿では最後にイベントを通して多く使われていたキーワードを6つ紹介したい。
1つは「決済」だ。とくに「ワンクリック決済」と呼ばれる決済サービスがコンバージョン率およびリピート率を高めると同時に、詐称の検知や防止という観点からも注目されている。
2つ目は「サプライチェーン」である。小売業界全体として人手不足が深刻な問題となっている。そうした中で、ミドルマイル配送を自動運転で実施する取り組みがドライバー不足解消への有効な手段として期待されている。
3つ目は「サステナビリティ」。今年からショップトークにおいて、数値化可能な小売企業の改革・リーダーシップ・サステナビリティに貢献した企業4社に「ATLIS Award」が贈られている。昨年のCOP26後、各企業の行動変革が大きく影響している。
4つ目は「パーソナライゼーション」である。バーチャル試着などから想像できるように、ARやアプリを通して、シームレスなショッピング体験を実現すると同時に、より良い製品開発や在庫管理、顧客の購買行動分析等にデータを活用できる点で注目されている。
5つ目は「メタバース/NFT」である。VRヘッドセットやアプリ不要で、ウェブ上で高品質の3Dグラフィックスを閲覧できる技術も紹介されている。オンライン上での購買体験をより楽しく充実させるという点で注目されている。
6つ目は「ライブコマース」が挙げられる。製品関連画面上に消費者を長く滞在させられるという点で注目されており、店舗店員をマイクロインフルエンサーとして教育するという点も話題になっている。
次回は、ショップトークの基調講演の中でもとくに興味を惹かれた講演の1つ、インスタカートCEOのFidji Simo(フィジー・シモ)氏が語った内容について詳しく解説していく。