流通関連のデータ分析大手の英ダンハンビー(dunnhumby)は毎年、米国の主要グローサリー企業を対象とした「顧客ニーズ適応度ランキング」を公表している。顧客ニーズ適応度とは、消費者の購買行動に関するアンケート結果と、各企業の業績を組み合わせたユニークな指標で、業界では小売企業の実力を知る上で有益な情報として注目されている。本稿では、22年1月に発表された最新版のランキングを見ていく。
取材協力=高島勝秀(三井物産戦略研究所)
2022年版は新顔2チェーンがランクイン
三井物産と日本における事業で合弁会社を設立しているダンハンビーは、2018年から顧客適応度ランキングを発表している。22年1月に発表された同ランキングの最新版では、ある大きな変化が見られた。それは米国内6州と首都で計23店舗を展開しているアマゾンのグローサリー実店舗「アマゾンフレッシュ(Amazon Fresh)」と、ウォルマート(Walmart)が約800店舗出店しているスーパーマーケット業態「ネイバーフッド・マーケット(Neighborhood Market)」が、初めてランク入りしたことである(図表①)。
この結果について、海外流通に詳しい三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は、「コロナ禍を経て顧客ニーズが変化したことが大きな理由だ」と分析する。というのも、同ランキングは顧客が小売企業や店舗を選ぶうえでの7種のニーズ(図表②)への各企業の適応度を算定し、それらをアンケート結果に基づいて算出したウェートで合成したうえで、さらに過去5年間の業績を加味して作成されている。
これまでのアンケートでは、「価格」と「品質」が重視されているという結果があったため、それらのウェートが大きくなっていた。だが、22年はインフレ圧力の高まりを反映して「価格」が引き続き重視される一方で、コロナ禍を受けた感染抑制の観点から、EC対応を含めた「デジタル」や、買物に要する時間短縮のための「スピード」が重視される傾向となり、それらのウェートが大きくなっている。「新たにランク入りした2社は、ECやアプリといったデジタルと実店舗を融合する先進的な取り組みを進めており、それが高評価につながったと考えられる」と高島氏は指摘する。
実際に、これまでは「価格」と「品質」で評価の高かったトレーダー・ジョー(Trader Joe’s)が、ECに対応していないこともあってか、順位を大きく落としている。しかし、同じくEC事業を行っていないマーケット・バスケット(Market Basket)は、3位と順位を上げている。
マーケット・バスケットは米北東部で約80店舗を展開する地域密着の中堅リテーラーで、ローコスト運営で低価格を実現し、顧客の問い合わせなどに迅速丁寧に対応するスタッフによる店舗運営で、消費者の厚い支持を集めている。「コロナ禍では、買物の所要時間短縮を実現させるべく、店舗レイアウトの変更やレジ会計の迅速化を図っており、そうした施策が高評価につながったと考えられる」(高島氏)。
高島氏は続ける。「本調査でのマーケット・バスケットからは、リテーラーが顧客ニーズに適応するうえで、『ECが必須ではない』という可能性を示唆している。ECとリアル店舗の融合が主流となる中、今後はこうした事例にも注目していくことが必要と考えられる」。