米アマゾン(Amazon.com)は2021年11月、英国で米ビザのクレジットカードの取り扱いを終了すると明らかにした。英国の顧客に対し、22年1月19日にビザでの支払いを停止すると告知した。米「ウォールストリート・ジャーナル」紙やロイター通信の報道によると、アマゾンは理由について「ビザのクレジット決済手数料が高いからだ」と説明している。
「ビザの手数料高止まり、上がってさえいる」
取り扱い停止の対象となるのは、英国内で発行されたビザのクレジットカードのみ。ビザのデビットカードは引き続き利用でき、マスターカードなど他社クレジットカードも従来通り利用できる。アマゾンの広報担当者は「クレジットカード決済のコストは技術の進歩に伴い下がるべきだが、ビザの手数料は高止まりするのみならず、上がってさえいる」と批判している。
一方で、ビザのバサント・プラブーCFO(最高財務責任者)はロイターのインタビューに、「我々は過去にも同様の問題を解決した。今回も解決策があると考えている」と答え、アマゾンとの早期和解に自信を示している。
国際ブランド対抗で販売減リスクもアマゾンは例外か
これまでにも、米スーパーマーケットチェーン大手のクローガーが決済手数料を巡って対立し、ビザカードの取り扱いを一時停止したことがあった。また、16年には米小売り大手ウォルマートがカナダでビザと手数料協議の合意に至らず20店舗でカード受け入れを停止。半年後に和解したケースもあった。
だが、小売業界はおおむね高い手数料を容認してきた。高い手数料は、ビザなどのクレジット国際ブランドが持つ膨大な顧客ネットワークにアクセスするための対価と考えているからだ。ここ数年、現金払いの比率が減り、さらに新型コロナの影響によってキャッシュレス決済が一気に進んだ中で、小売業者にとってカード大手との対立は販売低下につながるリスクがあると指摘されている。
しかし、アマゾンは例外だとする見方もある。ロイターは「今回のアマゾンの決定は、消費者に多様な決済手段を提供する小売大手が、決済サービス市場で優位に立ちつつあることを示している」と報じている。
アマゾンは現在、米国でJPモルガン・チェース銀行発行のビザ提携カードを提供している。プライム会員にポイント還元するこのカードは、米国の提携カードとして最も広く使われるクレジットカードの1つだという。アマゾンは最近、提携国際ブランドとして米アメリカン・エキスプレスや米マスターカードと交渉中で、米国でのビザとの提携解消も検討しているという。英国ではマスターカードとの提携カードを持っており、今回のビザの取り扱い終了が、アマゾンの売上減少につながる可能性は低いとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。
決済手段拡大でクレジット大手に圧力
米決済サービスのワールドペイによると、北米EC市場におけるクレジットカードの利用率は32%で、非現金取引で最大となっている。だが最近は、米ペイパル・ホールディングス傘下の送金サービス「ベンモ」や、「バイ・ナウ・ペイ・レーター(BNPL)」と呼ばれる後払い決済サービスの利用が増えている。20年のクレジットカードの利用率は、19年に比べて7%減少した。これに対しBNPLは78%増加。コロナ禍でクレジットカード利用の減少が加速した一方でBNPLは若年層を中心に急速に伸びている。
アマゾンは21年8月、大手BNPLの1社である米アファーム・ホールディングスと提携した。これにより米国の顧客はクレジットカードを使わずに分割払いが利用できるようになった。こうした代替決済手段を拡大することで、アマゾンは変化する顧客需要に対応するとともに、クレジット大手に圧力をかけている。
前述した通りアマゾンの英国でのビザカード取扱い終了日は22年1月19日。それまでに2社の交渉がどう進展するのか注目されている。