止まる円安を追い風にできるか 間もなく発表されるニトリHD決算に期待すること
円安修正が追い風になる!?
しかし、同社は「製造物流IT小売業」を自らを標榜するに相応しい付加価値の感じられる製品を家具・ホームファッションのカテゴリーで展開しており、価格政策も柔軟かつ積極的に見受けられます。このため既存店売上高の推移をみると2022年2月期をのぞけば前年度比プラスを維持できています。
また経費についても、人件費・物流費・光熱費などの上昇圧力があるはずにもかかわらず、売上高の水準から見て概ねよく管理されているという印象です。また、海外展開も着実に進捗し、東南アジアを中心に足場づくりをしているところです。
したがって、急速な円安が一服すれば粗利益確保がやりやすくなり、増収と売上高純利益率の回復を伴った利益成長の再加速につながって不思議はないと考えます。
「売上高純利益率の改善」以外にも残る課題
しかし、筆者は同社の株価が本格的に新しいステージに入るために、売上高純利益率の回復だけでは不十分だと考えます。
次のグラフをご覧ください。売上高当期純利益率とROE(株価資本純利益率)を棒グラフとして左軸に、ROEを売上高当期純利益率で除した数値を折れ線グラフとして右軸にプロットしています。ここで確認したいことは、売上高当期純利益率が増加した場合、それが株主がもっとも注目する財務指標の一つであるROEにどの程度連動するのかという点です。
ご覧のように、売上高純利益率とROEとのギャップが年々縮小していることが、黄色の折れ線グラフが右肩下がりであることからわかります。つまり、売上高純利益率が少し改善しただけでもROEの大幅改善するつながる、という期待感が乏しいわけです。
2025年に入り、ドル円相場が円安修正が進んでいるにもかかわらず同社の株価の戻りが不十分に見えるのは、円安の修正が今後の売上高純利益率の押し上げ要因になるとしても、それだけをもってROEの顕著な反転上昇にはつながらないのではないかという疑念が投資家に残っているから、と筆者は推察します。
投資効果の可視化と株価資本の適正化も必要
(金額:百万円) | 2014年2月期 | 2019年2月期 | 5年間平均年率成長率 | 2024年3月期 | 5年間平均年率成長率 | 2025年3月期会社予想 |
---|---|---|---|---|---|---|
A | B | |||||
売上高 | 387,605 | 608,131 | 9.4% | 895,799 | 8.1% | 960,000 |
経常利益 | 63,474 | 103,053 | 10.2% | 132,377 | 5.1% | 134,000 |
当期純利益 | 38,425 | 68,181 | 12.2% | 86,523 | 4.9% | 92,000 |
現預金 | 21,973 | 102,345 | 36.0% | 137,943 | 6.2% | |
有形固定資産 | 177,366 | 302,041 | 11.2% | 736,897 | 19.5% | |
総資産 | 321,701 | 619,285 | 14.0% | 1,238,677 | 14.9% | |
純資産 | 247,896 | 500,192 | 15.1% | 896,308 | 12.4% |
この要因を示すのが次の表です。すでにご覧いただいた損益計算書にかかわる数値に、貸借対照表の数値を加えてみました。
期間Bに注目してください。損益計算書項目である売上高、経常利益、当期純利益の成長率に対して、貸借対照表項目である有形固定資産、総資産、純資産(ほぼ株主資本と同じ)の成長率が大きいことがわかります。この間、島忠の連結がありましたが、その連結後も有形固定資産、総資産、純資産が大幅に伸びています。
この表の意味は次のようになります。
• 同社の利益は成長を継続しているものの、その成長率は鈍している
• 一方、純資産・株主資本の増加率は利益成長率を上回る。その結果ROEの分母の伸びが分子の伸びを上回る基調になっている
これがROEが漸減基調にある原因といえるでしょう。しかも
• 純資産の増加に合わせて有形固定資産を主体に総資産を増やしている。おもに国内物流網再構築のために在庫保管型物流センターの新設と思われる
• しかしこれが売上高の押し上げや、利益率の改善につながっていないように見える
• ゆえにこうした投資の成否について現時点では肯定的評価を下せない
ということだと考えます。
そこで少なからずの株主・投資家は次のように考えているはずです。
• 積極投資は好ましいとしてもその投資成果の可視化を求めたい
• 投資採算評価が緩んでいるかもしれないので、純資産の増加率を抑制し、その効果として今後の投資に一定のキャップを設けた方がよいのかもしれない
• ゆえに、配当性向(年々の純利益のうち内部留保にまわさず配当行う金額の割合)を現状の15-20%から引き上げるべきだ。
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