[東京 8日 ロイター] – 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う行動制限や半導体などの供給制約の影響で、7─9月期の個人消費は2四半期ぶりに前期比で小幅減少した可能性がでている。一方、消費は低迷しているが、落ち込みは小幅にとどまったという見方もある。10─12月期は緊急事態宣言解除で消費の回復が見込まれることもあり、岸田政権が近く取りまとめる経済対策では、コロナで打撃を受けた事業者や生活困窮者に絞った支援を求める声がでている。
耐久財への需要弱く、消費押し下げ
8月の家計調査によると、2人以上の世帯の実質消費支出は、物価変動の影響を除いた実質で前年比3.0%減少した。緊急事態宣言の対象地域拡大や、天候不順などを背景とした外出自粛で消費が下押しされた。 8月の小売業販売額も、感染拡大による外出自粛の影響が幅広く見られたほか、家電販売が落ち込んだことで前年比3.2%減少した。
第3四半期(7─9月期)は8月にかけて感染者が急増、緊急事態宣言の対象地域も拡大された。外出自粛に伴いサービス消費が振るわず、これまで好調だった白物家電への需要も一巡したと見られる。
「サービス消費の低迷に加えて、家電・自動車といった耐久財の弱さも下押し要因となり、7-9月期の個人消費は小幅マイナスが見込まれる」とみずほリサーチ&テクノロジーズの嶋中由理子エコノミストは指摘する。同社の試算によると、7─9月期の自動車販売は前期比12.9%の減少となり、個人消費を0.4%ポイント押し下げる要因になるという。
自動車の減産は消費に影を落とす。トヨタ自動車は、コロナ感染拡大などによる部品供給不足により、9月と10月を合わせた世界生産を8月時点の計画から約40万台さらに減らす計画だ。9月の国内新車販売台数も3カ月連続で前年を下回っている。
日本経済研究センターが実施したESPフォーキャスト10月調査(回答期間:9月27日ー10月4日)によると、7─9月期の実質GDPは前期比年率でプラス1.0%となり、9月調査より0.36%ポイント下方修正された。9月は感染者数の増加ペースも落ち着いてきたためサービス消費の回復が見込まれるが、第3四半期を通しては消費全般は振るわなかったもようだ。
9月以降は回復基調
一方、「消費は弱いという認識に変わりはないが、感染拡大していた8月に予想していた頃に比べると、7-9月期は小幅減少にとどまったもようだ」と経済官庁幹部は見る。「第6派」への警戒もあり、消費が一気にコロナ前に戻るほどの力強さがでるか不透明だが、緊急事態宣言の解除で10-12月期は景気の回復が見込まれる。
イオンでは、9月以降の下期について、ワクチン接種が想定よりも早く完了することや、ワクチンパスポートの活用などを見込んでいる。コロナ感染者の減少により行動規制の緩和も行われ、「年末年始の人流は19年水準まで戻る」(幹部)とみている。
先の経済官庁幹部は「10-12月期はそれなりにペントアップデマンドも出てくる」と予想する。
一律の支援は不要、対象を絞るべき
こうした中、岸田文雄首相は数十兆円規模の経済対策を年内に策定すると明言。8日の所信表明では、感染症で打撃を受けた事業者や非正規社員、子育て世帯などへの給付も実行するとした。
こうした施策を支持する野村総合研究所の木内登英・エグゼクティブ・エコノミストは「追加の個人所得支援策は、ターゲットを絞り、助けを必要とする人に手厚い支援を実施することが重要だ」と指摘。一律での給付は、コロナ問題で拡大した格差の縮小につながらないとの見解を示す。
重要なのはコロナ対策であり、観光支援事業「GoToトラベル」のような施策は急ぐ必要はないと指摘する専門家もいる。
大和証券の岩下真理・チーフマーケットエコノミストも、経口治療薬の早期承認や病床確保に加え、医療関係者への給付金や医療・介護・保育の分野で働く人達の最低賃金の引き上げなどを早急に実施する必要があると指摘。「全員にばらまくというよりは、対象を絞ったものが望まれる」とし、ワイズスペンディング(賢明な支出)が重要だとした。