[東京 21日 ロイター] – 日銀内で国内景気への強気な見方がじわり広がっている。「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で成長率見通しを引き上げたことで、先行き国内景気の回復基調が確認できれば政策金利のフォワードガイダンス(FG)を見直すべきだとの議論が出てくる可能性もある。ただ、黒田東彦総裁は「緩和方向を意識した政策が当分続く」と政策の方向性を維持する考えを示しており、FG修正への機運がいつ高まるか現時点で見通せていない。
日銀が21日、公表した1月の展望リポートでは、2020年度の成長率見通しが昨年10月時点のプラス0.7%からプラス0.9%に引き上げられた。政府の経済対策の効果で20年度を中心に上振れを見込んでいる。
日銀は昨年後半、海外経済の回復が遅れていることを受け、経済・物価の下方リスクを強く意識した政策運営をしてきた。19年10月の金融政策決定会合では、フォワードガイダンスを修正。物価安定の目標に向けたモメンタムの下振れに「注意が必要な間」、政策金利は「現在の長短金利水準またはそれを下回る水準」で推移するとした。
しかし、日銀の金融政策を取り巻く環境はその後変化。IT関連財の需要の持ち直しに加え、米中貿易交渉での第1弾合意、欧州連合(EU)離脱問題を争点にした英国総選挙での与党勝利など世界経済を取り巻くリスク要因が後退。マーケットは年明け、中東情勢悪化で一時的に振られたものの、株高・円安基調にある。
こうした動きをにらみ、世界経済の回復とともに国内景気の回復基調が鮮明になれば、FGの文言修正に取り組むべきだとの声が出始めている。11月の米大統領選挙にかけて、トランプ大統領がマーケットに動揺をもたらす言動には出ないのではないかといった見方や、中国景気への強気な見方など、海外景気への楽観論も目立つ。
さらに、リスク要因が顕在化せず、国内景気が順調に回復した場合でもマイナス金利を続けていると、銀行のみならず世論の反発が強まることへの警戒感もくすぶっている。
<黒田総裁は慎重姿勢>
しかし、黒田総裁は21日の会見で海外経済の下振れリスクへの警戒モードを緩めなかった。海外経済が持ち直したらフォワードガイダンスの修正もあり得るかとの質問に、「成長率がメインシナリオより急速に加速することがあれば見直し議論になるかもしれない」とする一方で、「いろいろなリスクが残っている。緩和方向を意識した金融政策が当分続いていく」と述べた。物価目標2%の達成が遠い中で、金融政策の枠組み変更や見直しも時期尚早との見方を示した。
今回の展望リポートでは、国内経済の先行きに関する表現が一部修正された。10月時点で「当面、海外経済の減速の影響が続く」としていた文言を「当面、海外経済の減速の影響が残る」に変更した。しかし、日銀内では、海外経済にボトムアウトの兆しが出ていることを表現したものにすぎず、世界経済が20年度半ばにかけて回復するとの見通しは10月時点と変わっていないとの指摘が聞かれる。
個人消費の先行きへの懸念も根強い。展望リポートでは消費税率引き上げの影響について、軽減税率やポイント還元制度といった政府の各種施策により、今回の消費税率引き上げ前後の影響は「前回増税時に比べて抑制的だった」と指摘。その一方で実質所得の減少による影響は「消費者マインドや雇用・所得環境、物価の動向によって変化しうることから、引き続き注意する必要がある」とした。
日銀内では、子育て世代や高齢者が政府の経済対策で恩恵を受ける半面で、政府の対策の対象にならなかった中高年の消費が落ち込むことへの警戒感も出ている。
展望リポートでは物価について、21年度にかけて伸び率が高まる姿を示し、「2%に向けて徐々に上昇率を高めていく」との文言を維持した。ただ、物価の予想値は10月の前回リポートよりいずれも引き下げられた。黒田総裁は会見で、成長率の上振れは物価の押し上げにつながるものの、タイムラグや感応度の問題で21年度までに表れる効果はわずかにとどまるとの見方を示した。
<「政治」に振らされるリスク>
米中貿易摩擦の激化、英国のEU離脱問題、中東情勢の緊迫化などはいずれも「政治」サイドの景気下振れ要因だ。政治発のさまざまなリスクが続出して景気見通しを困難にしてきたため、「いつ政治発の要因で再びマーケットが混乱するかわからない」との声も、日銀内では聞かれる。