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CRMの大原則“オープンに集客、クローズドにおもてなし” その成功例と失敗例

師走となり、街中ではクリスマス・年末の雰囲気が高まりつつある。寒さの強まりを体感するとともに冬物商戦が盛り上がることを期待しながら、今日も小売業界に少々思いを馳せるのであった。今回は、CRM(顧客関係管理)において小売業が陥りがちなミスとその根本要因、そして成功事例について解説したい。

Photo by RossHelen

“間口の狭い”決済にこだわる愚

 前回、現在の小売業界では「ID-POSの普及を背景としたマーケティングのパラダイムシフト」が進行しているとの見方を述べた。すなわち「POSによる単品管理」⇒「ID-POSによる単品”単人”管理」へのシフトである。繰り返しになるが、顧客データ(購買履歴)の蓄積と固定客化に際しては「オープンに集客、クローズドにおもてなし」が鉄則となる。すなわち、集客の間口は広く(=普及度が高く、アクセスが容易で利用しやすいメディアの活用)、顧客の囲い込み策では、上位顧客に限定して集中的に費用投下するということである。

 お店で買い物するお客さんの数は「現金払い→ポイントカード保有客→電子マネー払い→その他クレジット」の順となることが一般的であり、間口の広さの点で、ポイントカード(スマホアプリ含む)がCRM(個客関係管理)の起点となる。

 しかしながら、流通大手はなぜ入口の狭い「決済」にこだわるのだろうか。会社側の説明では、現状のポイントカード(プリペイド型電子マネー付)では顧客の属性情報が十分に取得できないためだと言う。すなわち、ポイントカードに顧客情報が最小限しか登録されておらず、単なる購買履歴のみの蓄積になっているということであろう。

 流通大手のポイントカード導入の際の初動において、ボタンの掛け違いがあったと筆者は見ており、今回も『買い物体験の乏しいオッさんが、慣れないことに見よう見まねで手を出して、大失態をやらかした』見本となるかもしれない。小売企業の方々には“良い子の皆さんはマネしないようにね”と伝えたいが、他山の石として共有していきたいと思う。

既存ポイントカードでは不十分だとする理由は?

 結論から言えば「(クーポン配布による来店誘導)⇒ポイントカードの保有者化⇒ポイント蓄積を先行⇒ポイント利用・カード保有者優遇策を享受する条件として顧客情報の登録を求める」という今となっては「定石」とも言えるプロセスへの理解が乏しかったのかもしれない。いわばポイントカード版「先用後利」というか、先にポイントを貯めてもらって、ポイント利用を誘因策として属性情報を登録していただくということである。ポイント蓄積開始から一定期間は傾斜的なポイント付与率としてもいいかもしれない(短期間で一定程度のポイント蓄積があれば離脱率を抑制できる可能性が高まるため)。

 好例を示すと、たとえばシネマコンプレックス(シネコン)の発行するマイレージカードでは、個人情報を登録しなくても映画鑑賞すればマイレージが貯まるが、無料チケットや特定曜日の割引サービスを利用するためには個人情報の登録が必須となる。あるいは、提案型売場で知られているある優良食品スーパーの例では、新店開店の際に来店客に広くポイントカードを配り、買い物券やクーポンの利用には登録が必要な旨を説明して登録を促進する、あるいは後日、ポイントと買い物券の引換方法を質問された際に、あらためて登録が必要な旨を説明しているとのことである。これらは“間口を広く開けておき、顧客の囲みこみ策へと誘う”好例と言えるかもしれない。

 逆に悪例として、冒頭で述べた“ボタンの掛け違い”とは、ポイントカードの入会時にガチガチの登録を要求し、カードホルダーが期待したほど増えなかったことから、要件緩和を迫られ、取得情報の乏しいポイントカードになってしまったというケースを意味する。例えば、セブン&アイ・ホールディングス(以下7&I)は、nanaco」スタート時に(筆者の記憶の限りでは)記入フォームが細かく、保有者数が伸び悩んだことから、事後的に登録条件を大幅緩和している。かつ、顧客に対して登録情報を深めるようなインセンティブも無いに等しかった。

ココカラファインが陥った、ボタンの掛け違いの例

 ここでドラッグストア大手のココカラファインの事例を見てみよう。現在は既に善後策が講じられており、同社の考えるCRM戦略に取り組んでいるが、過去のケーススタディとして振り返ってみようと思う。ココカラファインでは、20134月に新ポイントカード「ココカラクラブカード」の導入開始後、旧ポイントカードから新ポイントカードへの速やかな切り替えを前提に、当該カードを活用した全社統一販促の実施を想定していた。新カードはプリペイド機能付きであり、かつ同社店舗だけでなくVISA加盟店で利用可能な利便性の高いカードであった。同社では20163月末の目標として稼働会員数1,100万人(2013.3月末約750万人)を目指した。

 しかし、「VISAプリペイド」(国際クレジットカードVISAの提供するプリペイド機能)を搭載したため、旧ポイントカードから新ポイントカードへの切り替えは顧客にとって煩雑で手間のかかる手続き(=クレジットカードのVISAカードへの入会と同等の書類記入が必要)となった。結果として、同社の主要顧客層(主に中高年女性)ほどカード切り替えが進捗しない事態となり、20143月末の新ポイントカード会員は約310万人にとどまった(稼働会員約760万人の約4)。同社としては出鼻をくじかれた形となり、想定していたCRM戦略を推進するまでに、予想以上に時間を要することとなった。

 ポイントカードだけでなく、来店への撒き餌となるクーポン配布に関しても同様であった。顧客の保有するスマホへアプローチするにはSNS利用が有効だが、SNSの選択に際して、実名登録の原則に抵抗を感じる人が多いサービス(例:Facebook)を用いた場合、最初から客層が限定されてしまう可能性が高い。実際、ココカラファインは2013年に「Facebook」を活用した販促や固定客化を試みたしたものの、期待した効果が得られず、短期間で中止している。対照的に、マツモトキヨシホールディングスが20127月から利用開始した「LINE」は、手軽なメールアプリとして広く普及していたため、“オープンに集客”の原則に沿ったメディア選択であったと言える。

 

 「ID-POSによる単品”単人”管理」と「オープンに集客、クローズドにおもてなし」。流通大手の経営者の方々は、パラダイムシフトを認識し、適切な戦略・戦術を理解しているのであろうか。日本の小売業界には成功事例・苦戦事例ともに先行企業の事例が豊富にある。参考になることは多いと思う。

 イチョウ並木の黄金色のじゅうたんを踏みしめながら、そんなことを思う今日この頃である。