[東京 20日 ロイター] – 「米利下げなら円高」というパターンが、繰り返されるとは限らない。過去の米利下げ局面では、円安が進んだケースもある。今回も、金融緩和による景気や株価の押し上げ効果に市場の注目が集まれば、リスクオンによる円安が進む可能性がある。市場の利下げ期待がやや過剰との見方もあり、円高進行か円安反転か、決め手は見えていない。
<FOMCメンバー、利下げ予想は17人中8人>
市場は、米利下げ期待をすでに相当織り込んでいる。CMEグループのフェドウォッチによると、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の金利先物市場では、年末までに0.75%、0.25%刻みなら3回分の利下げを織り込んでいる。
しかし、今回のFOMCで示された金利見通し(ドットチャート)では、メンバー17人のうち、年末までに政策金利を0.5%ポイント引き下げることが適切との見解を表明したのは、半数以下の7人(もう1人は0.25%ポイントの利下げ)にすぎない。
10年米国債利回りは16年11月以来となる2%割れまで低下したが、市場はかなりの利下げを織り込んだため、今後の金利低下余地はそれほど大きくないとの見方も少なくない。ドル/円を押し下げる米金利低下が止まれば、円高も進みにくい。
株高期待も円高進行を妨げる。米連邦準備理事会(FRB)により積極的かつ予防的な利下げが米経済を下支えするなら、高金利通貨などのリスク資産買いとともに、リスクオンの円売りが活発となるシナリオも描ける。実際、19日の米株市場では、S&P500とダウが、過去最高値まで1%足らずの水準に迫った。
みずほ証券・チーフ為替ストラテジストの⼭本雅⽂氏は「金融緩和の波及経路である金利は、各国とも低下余地が乏しく、相次ぐハト派化で通貨安も進みづらい。しかし、株高を通じた資産効果チャネルが、働く可能性は残されている。株高は投資家のリスクテイク姿勢の強まりを通じ、円など低金利通貨の下落要因となる」との見方を示す。
<過去の米利下げ、円高ケースは5分の3>
過去の米連続利下げ局面と、ドル/円の関係を振り返っても、利下げとドル安/円高は必ずしも直結していない。89年以降、FRBが連続利下げを実施した5回中、ドル/円が下落したのは3回だけ。95年と2001年はともに上昇している。
「米利下げは円高」との印象が強いのは、リーマン・ショック後の記憶が鮮烈かつ新しいせいかもしれない。07年から08年にかけて5%の利下げが行われた際、日経平均は7000円台を割り込むまで売られ、ドルは90円台まで急落した。
しかし、当時と異なるのは、投機筋のポジションだ。金融危機前は、日本の物価は上がらないまま緩やかな成長が続き、ヘッジファンドなどは低金利の円を売り、高金利通貨建て資産へ投資する円キャリートレードを大量に行っていた。
米商品先物取引委員会(CFTC)が集計する投機筋の円売りも、過去最大に膨らんでいた。だが、直近の円売りの規模は、当時の3分の1程度。「リスク回避で円が買われるのは、その前にリスクオンで円が売られていたためだ。最近はリスクオンの円売りが進まないので、リスク回避になっても買う円がない」(外銀幹部)という。
<本格的な利下げなら、ドル104円も>
とはいえ、今後、FRBが市場の期待に沿うように連続利下げモードに入れば、円高が再開する可能性もある。欧米だけでなく世界的に金融緩和に動いているのは、本格的な景気減速懸念が背景にあるからだ。
20日の外為市場では「FRBの金融緩和はドルを押し下げる。底堅く推移する場面があれば、夏場に向けて絶好の売り場となる」(外銀)との声が広がった。ドルは107.55円まで下落し、1月以来の安値を付けた。
ドルの全般的な値動きを示すドル指数は、利下げ観測が高まってきた5月下旬から低下基調に入っている。それまでは投資家のリスク回避姿勢が高まる場面でドルと円が買われてきたが、その頃からドル買いの勢いは少しずつ失速。均衡が崩れるなか、円のじり高が目立つようになってきた。
ドル/円は、今月5日の直近安値を下回ったことでテクニカル的にも下支えを失った状態であり「1月の円暴騰時に付けた104円台も見えてきた」(トレーダー)との声も出ている。
現在のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は2.25─2.50%。1回につき0.25%ポイントなら9回の利下げが可能だ。「予防的」な利下げで済むのか。それとも、市場の予想を上回るような本格的な利下げ局面に入るのか。それ次第でドル/円の方向性も決まることになりそうだ。
(基太村真司 編集:伊賀大記)