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食品スーパーが規模拡大と地域密着を両立する方法

5月下旬は異例の高気温となった。5月26日には、北海道東部の佐呂間町で気温39.5℃を観測、5月として全国の観測史上最高気温の更新となった(従来の5月の最高気温は埼玉県秩父市で記録された1993年5月13日の37.2℃)。北海道で5月に猛暑日(=1日の最高気温が35℃以上になる日)となるのも初めてである。東京では、5月としては史上初の4日連続(24日~27日)の真夏日(=1日の最高気温が30℃以上になる日)となった(本稿執筆時点)。じわりと汗ばみつつ、今日も食品スーパーに少々思いを馳せるのであった。

 

道産子も勘違いする!ジンギスカンの道内の地域性

 北海道は筆者の故郷である。そして、道産子にとって、ジンギスカンは別格な伝統料理だと個人的に信じている。

 ある北海道の食品スーパー企業の社長さんに「店舗網の広域化に伴って、道内の地域性の違いと対応の必要性を認識した」とのお話を伺った際、同じ道内でもジンギスカンに地域性があることを知り、驚きを隠せなかった。筆者は、ジンギスカンと言えば、タレに付け込んだ「味付け肉」のみを指すと思い込んでいたためだ。実際には、北海道において、「味付け」が主流なのは北海道の北部(旭川・深川・岩見沢など)であり、北海道の南部(札幌、函館など)と道東(釧路など)では「生肉」が主流とのことであった。

 このお話を伺った冬のある日、突如、あることを思い出し、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。大学時代、ゼミの打ち上げで「札幌ビール園」に行った際に、生肉ジンギスカンが出され、“このお店は間違っている”と信じ込んでいたことが記憶の奥底からよみがえってきたためだ。無知だったとはいえ、当の札幌ビール園さんには長年、大変申し訳ない誤解をしていたことになる。じわりと冷や汗が流れ、汗に反応して暖かさを増すユニクロのヒートテックがさらに発汗を促し、汗に反応する柔軟剤の作用でバラの香りにつつまれるというシュールな状況となった。筆者の恥ずかしい思い出の1つである。

 たしかに、北海道は広く、地域によって気候や産業も異なる。ざっくりと表現すれば、道北・道南・道東・道央という感じだろうか。道内の代表的な食品スーパー企業のアークスは傘下の食品スーパー企業を、ひし形を4分割するような形で配置している。すなわち、札幌・道央のラルズ・東光ストア、帯広・釧路の福原、旭川の道北アークス(旧フジ)、そして北見・網走の道東アークス、函館の道南ラルズである。各々の地域性を考慮すると、地域別の法人配置は自然な布陣と思われる。

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近県でも大きく異なる食文化をどう制するか!?

近くても全然違う!食文化の違いにどう対応するか?

 さて、日本では、上記の北海道に限らず、地方ごと(あるいは平野ごと)に食材・食文化が多様であり、隣接する都道府県と言えど、日常的な食材が全く異なることがある。例えば、新潟・北陸・北関東で消費される代表的な鮮魚を比べると、新潟はしゃけ、北陸はぶり、北関東はまぐろとなっており、地域性の違いが明確である(図表1)

(注) 1人当り年間消費額=1世帯当り年間消費金額÷世帯人数
出所:総務省「家計調査報告」(2018年)より筆者作成

 いわば、新潟はしゃけ文化圏、北陸はぶり文化圏、北関東はまぐろ文化圏と分類されるかもしれない(図表2)。こうした違いへのきめ細かな対応は、小売企業にとって、とりわけ食品スーパー企業にとって極めて重要である。地元の人々が普段食べている食材を扱っていない、あるいは十分に品揃えされていない食品スーパー店舗は、家庭の主婦に“使えない店”と見なされる可能性があるためだ。 

出所:筆者作成

 他業態との競争激化も含めた食品スーパーの収益環境が一段と厳しくなる状況下、規模拡大によるスケールメリット享受と競争力強化は避けられない。一方で、広域化の副作用としての営業力低下(地域対応の弱体化)リスクも無視できない。しかしながら、方向性は明確ではなかろうか。すなわち、店舗展開エリアの広域化(=規模拡大)と地域対応を両立するために、地域ごと・季節ごとの食材・食生活を熟知した地元チェーンの買収や大同団結が非常に有力な選択肢となる。

 ここで、新潟県・群馬県を地盤とするアクシアル リテイリングの事例を見てみよう。新潟地盤の原信ナルスが店舗展開エリアを拡張する場合、北陸方面と北関東への南下政策(あるいは東北への北上政策)などが検討される。しゃけ文化圏の原信ナルスが南下政策(→まぐろ文化圏への参入)に際して、現実に選択したのは、群馬県地盤のフレッセイホールディングスとの経営統合(201310)であった。その後の業績推移を見る限り、規模拡大と地域密着を両立するために、両社ともに合理的かつ賢明な選択をしたと評価されるのではなかろうか。

 今や、食品スーパー企業は「各社の商品部(特に生鮮担当チーム)が蓄積してきた“経験知”を大切な経営資源であると評価し、それらを取り込み、集約・活用し、連合結成によって規模の競争力を発揮すべき」という時代に直面しているのかもしれない。

 東京駅八重洲地下街の物産ショップで購入した味付きジンギスカンを食しながら、そんなことを思う今日この頃である。