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データで見る流通
オーバーストア時代の出店戦略人手不足と物件確保の難易度上昇が課題に

文=山田 賢一

ザイマックス不動産総合研究所主任研究員

 

 総合スーパーやコンビニエンスストア、家電量販店などの業態にみられるように、近年、不採算店舗の大量閉店を実施しながら、新規出店を続ける企業が増えている。オーバーストア時代の小売業にとって、出店と退店は別個のものではなく、表裏一体で継続的に行う成長戦略となっている。

 

 こうした小売業の出退店の実態を明らかにすべく、ザイマックス不動産総合研究所は、早稲田大学小松幸夫研究室と共同で「商業店舗の出退店に関する実態調査」を実施した。小売業のアンケート調査対象は、直近年度の売上高が30億円以上の3487社で、有効回答数は428社(回答率12.3%)だった。

 

 小売業における新規出店時に重視している上位10項目を示したのが図表1だ。全27項目の回答を大きく5つに分類すると、最も多かったのは「立地・マーケット」に関するものだった。次点は「競合店」で、「(賃借時)契約者・契約条件」「建物・設備」「その他物件与件」と続く。

 

図表1●新規出店時に重視する上位10項目
出所:ザイマックス不動産総合研究所「商業店舗の出退店に関する実態調査」(図表2とも)

 

 これらの回答からは、契約条件や建物の仕様・築年数などよりも、マーケットや物件のポテンシャルを重視する企業が多いことが読み取れる。出店の可否は売上高だけではなく、総投資額や利益率など複数の指標で総合的に判断する企業が大半であろう。売上高が伸びにくい時代において、出店基準を満たす物件選定のためには、より高い精度でこれらのポテンシャルを見極める必要性が増してきているのではないか。

 

 図表2は新規出店時の困り事について、その発生頻度や程度を質問したもので、「従業員が確保できない」という回答が最も多かった。労働集約型産業である小売業は、近年深刻化する人手不足の影響を大きく受けており、アンケートと同時に実施したヒアリング調査では「最近は人手が確保できるところにしか新規出店できない」(大手チェーンストア関係者)という声もあった。次に多かったのは、「店舗面積が自店適正面積と合う物件が少ない」という回答だった。この背景としては、都市部を中心とした出店エリアの重複に加え、各業種・業態の展開面積の幅が広がり、以前はバッティングしなかった企業との物件獲得競争が激化していることが考えられる。人手不足に加えて、優良物件確保の難易度上昇も新規出店の課題となっているのである。

 

図表2●新規出店時の困り事

 

 このように、小売業における新規出店のハードルは高くなりつつある。こうした環境与件を踏まえると、小売業は今後、自社の中長期的なビジョンに基づいた新たな店舗フォーマットの開発や、出店フォーマットの幅を広げる取り組み、あるいは出店戦略そのものを見直す必要が出てくるだろう。

 

(「ダイヤモンド・チェーンストア」2018年4/1号)