データで見る流通
低所得者層は摂取する食品のバランスを欠く傾向に

2016/01/15 00:00
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    文=藤澤 研二

    江戸川大学 経営社会学科 教授

     

     厚生労働省から「平成26年(2014年)国民健康・栄養調査結果の概要」が発表された。今回の調査では、初めて「所得と食生活」の項目が加えられた。その結果が興味深いものなのでここで取り上げ、その背景にある社会経済状況とともに紹介、分析してみたい。

     

     この調査は健康増進法に基づき、2003年から実施されているもので、国の健康増進、生活習慣病対策に資することを目的としている。今回の調査サンプル数は3266世帯で、世帯所得は「200万円未満(ここではⅠ群と呼ぶ:サンプル数784世帯)」、「200万円以上600万円未満(同Ⅱ群:同1765世帯)」、「600万円以上(同Ⅲ群:同717世帯)」の3つに区分されている。

     

     「所得と食生活」について、食品群別にみると、Ⅲ群に比してⅠ群の摂取量が多いのは、男性では穀類、菓子類のみでほかの品目はすべて下回る。とくに、野菜類、果実類、きのこ類、肉類、乳類、嗜好飲料類はいずれも20%前後少ない。同様に、女性のⅢ群とⅠ群を比べると、多いのは穀類と油脂類のみで、果実類、きのこ類、乳類の3品目は大きく下回る。このように、最も所得の低いⅠ群では男女ともに摂取する食品のバランスを欠く傾向がうかがえる。一方、Ⅱ群については男性では穀類、果実類、魚介類、菓子類が、女性でも穀類、魚介類、嗜好飲料類の摂取量がⅢ群を上回っている。摂取量がⅢ群を下回る品目もわずかで食品摂取量にそれほど大きな差は見られない。

     

     今回、「所得と食生活」の項目が加えられた背景には、日本の所得格差問題への認識があるのだろう。現状の所得格差に関しては諸説が存在するが、格差の指標とされるジニ係数が1985年の0.304から2009年の0.336へと緩やかながら上昇していること※1、また生活保護受給世帯数が1985年の78万1000世帯から2000年代に急増し、2015年には2倍強に増大していること※2などを見る限り、格差が拡大傾向にあるのは間違いなさそうだ。

     

     さて、格差との関連で食生活や生活習慣に係わる疾病や健康問題が懸念されるのは低所得者層、とくに若年と高齢者においてである。たとえば、不安定な非正規雇用下で低賃金、不規則な労働時間を余儀なくされ、経済的な理由で結婚もできず、バランスを欠いた食生活から体調を崩したり、肥満になる若者たちを取り上げる報道が増えた。同様に高齢者についても、限られた額の年金から住居費、医療費などを支払うと食費に充てる金額が不足して栄養失調に陥る事例なども報告されている。

     

     国民の所得格差や貧困への対応は、もちろん国の経済、社会福祉政策の領域だが、「食」を扱う事業者ができることはないか。たとえば、食品流通では、生鮮食品、つまり食事の原料の提供の面でいまだ非効率な部分は多い。また、食品ロスの削減も課題として残る。これらの対応で、食品価格の引き下げ余地は存在するのではないか。また、若者、高齢者への食育や健康指導なども可能であろう。さらに、買物弱者対策としての宅配や移動販売など、この問題に関して食品流通業の役割と事業者に対する期待は高まりそうだ。

     

    ※1:OECD資料 ※2:厚生労働省資料

     

    図表(左)●所得区分別の食品群別摂取量・20歳以上男性/図表(右)●所得区分別の食品群別摂取量・20歳以上女性

     

    (「ダイヤモンド・チェーンストア」2016年1/15号)

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