‟超”拡大する冷凍食品市場 食卓の異変と冷食の進化、小売業の新しい売場づくりとは

湯浅 大輝 (ダイヤモンド・チェーンストア 記者)
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高まる時短ニーズ、献立難民の救世主?

 近年の冷凍食品需要の高まりは、お客のライフスタイルの変化によるところも大きい。総務省の家計調査によると、17年8月の配偶者の平均月収は約5万8000円だったのに対して、21年8月は約8万3000円、22年8月は約9万円と年々増加している。女性の社会進出が進んだ結果、夫婦共働きが一般的となり、調理に割く時間が相対的に減った。また、「献立難民」というフレーズが20年に広まったように、在宅時間の増加によって、家で食事をとる時間が増えた事実も見逃せない。

 つまり、日々の食卓に出すメニューのレパートリーに悩む消費者が増加しているのだ。そんな状況のなか、総菜や簡便商品と同様に「下ごしらえ不要」「フライパンで炒めるだけ・レンジで温めるだけ」で日々の調理の手間を省くことができ、かつ「専門店のような本格的な味」も手軽に楽しめる冷凍食品に対する需要が伸びたのは想像に難くない。

 「時短」で調理を終わらせたいというニーズは年々顕著になっている。食未来研究室によると、1食当たりに出される品目数は21年8月に2%減の約4.4品目、22年9月に3%減の約4.3品目と年々減っている(いずれも対19年12月比)。それと比較すると、「1メニュー」当たりに使用される材料数は対19年8月比で、22年8月は2%増と、逆に増えている(いずれもインテージ「キッチンダイアリー」より食未来研究室分析)。これらデータから読み取れるのは「栄養たっぷりな」食事を家族に提供したい、というお客の潜在意識は変わっていないのだが、「調理にかける工数を減らしたい」という欲求が年々顕在化しているという事実だ。

 これを同時に解決するのが冷凍食品、とくに冷凍水産ミックス素材や冷凍ミックス野菜である。事実、下ごしらえなしで調理可能で、素材が複数入っている冷凍の野菜ミックスの売上規模は、対18年比で21年は約13%伸長している(KSP-SP「KSP-POS」)。さらに、22年以降はコストプッシュ型のインフレの影響で、節約志向が強まると予想される。家計にとっては、比較的「安価」に調理でき、保存性にも優れる冷凍食品の存在感が増していくだろう。

 このように、生活者を取り巻くマクロ環境の変化に応じて、冷凍食品の使われ方が変化している。一昔前の「冷凍食品=お弁当用」という買われ方はもはや一般的ではないのだ。つまり、冷凍食品市場の拡大は、単なる「流行」ではなく、お客の「食生活の変化」として、定着していく可能性が非常に高い。食品小売業にとって冷凍食品は、現在もさることながら将来的にも逃すことができない「商機」となっているのだ。

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記事執筆者

湯浅 大輝 / ダイヤモンド・チェーンストア 記者

1996年生まれ。シンガポール出身。同志社大学グローバル・コミュニケーション学部卒業後、経済メディアで記者職に就く。フリーライターを経て、2021年12月ダイヤモンド・リテイルメディアに入社。大学在学中に1年間のアメリカ・アリゾナ州立大学への留学を経験。好きな総菜はローストビーフ、趣味は練馬区を散歩すること。

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