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10月から入国規制が大幅緩和! 小売業を潤した「インバウンド消費」は復活するのか

世界的な新型コロナウイルスのパンデミックにより、渡航の制限や厳しい管理が続いていたが、2022年に入り、マスク着用を義務としない国々が増え、往来の制限がなくなるなど、世界的に緩和や規制の廃止などの動きが出てきた。日本も5月のゴールデンウイークや7~8月の夏休み期間のレジャーなど、国内の往来や海外渡航などを含む旅行消費が条件付きではあるが回復の兆しを見せている。

bennymarty/iStock

水際規制緩和でインバウンド復活の兆し?

 国内の感染者数推移や他国の規制緩和などの状況を鑑みて、政府は2022年9月7日から海外からの入国者数の上限を1日2万人から5万人に引き上げた。外国人観光客向け添乗員なしパッケージツアーの受け入れを再開したほか、ワクチン接種者に対する陰性証明書提示義務の廃止等の措置をとるなど、段階的な緩和を続けてきた。

 直近では10月11日より、訪日外国人に対するビザ免除措置の再開、入国者上限の撤廃、個人旅行(FIT)の解禁、これまで外国人の新規入国に求めていた日本国内に所在する受入責任者による入国者健康確認システム(ERFS)の申請も不要になるなど、ワクチン接種などの一部制限は残るものの、水際規制の大幅な緩和が実施された。これらの措置によって、コロナ以前より日本の観光業及び小売業などに多大な利益をもたらしてきた訪日外国人観光客による「インバウンド消費」の回復が期待されている。

コロナ以前と比較したコロナ禍の苦しい現状

 観光庁によると、コロナ前の2019年の訪日客数は3188万2000人、訪日外国人旅行消費は総額4兆8135億円と推計されていた。費目別の消費額では、「宿泊費」が29.4%、「飲食費」が21.6%、「買い物代」が34.7%を占める。

 旅行消費額の多い国・地域としては、1位が中国、2位が台湾、3位が韓国、4位が香港、5位が米国の順となっていた。これら上位5カ国・地域によって訪日外国人旅行消費額全体の約7割を占める。また1人当たりの旅行支出は15.9万円となっていた。

 しかしながら新型コロナウイルスの影響による水際対策の厳格化に伴い、2020年の訪日客数は411万5900人に減少、とくに旅行消費は落ち込みが激しく総額7446億円で2019年の約15%にまで減った。2021年はさらに減少し、訪日客数は24万5900人、旅行消費は総額1208億円と2019年の約2.5%となり、過去最低の数字を記録した。

 未曽有のパンデミックに伴う旅行者数の減少と消費額の低下は、航空会社や旅行会社、宿泊業、そして小売業とさまざまな業界に大きな打撃を与えたが、コロナ禍3年目にしてようやく、回復の兆しが見えてきている。

水際対策緩和後、初の20万人越え

 日本政府観光局(JNTO)が10月19日に発表した2022年9月の訪日外国人数(推計値)は20万6500人と、対前年同月比1065%増と大きく増えた。ただ、新型コロナウイルスの影響が出る前の2019年と比較すると、同月比では90.9%減。まだまだコロナ前の水準までの回復とは言えないものの、1カ月の訪日客数としては今年3月の外国人の新規入国再開以来、初めての20万人越えとなった。

 国別の訪日客数では1位が韓国、2位がベトナム、3位が米国、4位が中国となっている。インバウンド消費で最も話題となった「爆買い」を牽引していた中国では、今もなお海外旅行自粛が継続されているが、10月より春秋航空や中国東方空港など中国の航空会社各社が運行を見合わせていた日本との往復を含む国際線の再開を相次いで発表。企業間のビジネス渡航による往来が中心となることが予想されるものの、緩和が進み中国からの観光や買物目的の訪日客数、それらに伴う消費が盛り上がりを見せる日も遠くないと思われる。

円安もインバウンド増のはずみに?

 インバウンド消費に弾みをつけているのが、国内では不安要素となっている歴史的な円安である。

 訪日外国人観光客側からは「円安効果」とみなされ、百貨店では高級ブランドや高額品の購入による免税売上高も跳ね上がっている。

 たとえば「松屋銀座」では、平日の免税売上高が約10倍、日曜には20倍に急増。また、「三越銀座店」では16日までの1週間の免税売上高が約10倍伸び、そごう・西武(東京都)でも規制緩和直後の11日から17日にかけて国内10店舗の外国人客数が前年同時期の5倍増となったという。

 百貨店各社は自動翻訳機や免税カウンターの拡張、割引クーポンを導入するなど、インバウンド消費を後押しする施策を展開しており、そうした取り組みが奏功したとも言える。現時点におけるインバウンド消費は百貨店を中心に動いており、家電量販店やドラッグストアまでその効果が波及するかは今後の動きを注視していく必要がある。

 実際に、ファーストリテイリング(山口県)グループの「GU」では、10月21日より外国人がパスポートを提示すると一部商品の価格を500円~1000円割り引くことを発表するなど、百貨店のみならずそのほかの小売業もインバウンド消費を後押しするべく動き出している。

世界的に評価される日本、インバウンド消費は戻るか

 政府は2030年に6000万人の誘客を実現し、「観光立国」をめざす方針だ。全国100カ所の主要観光地については、案内や標識の多言語表示の充実と改善、外国人観光案内書などの多言語解説の整備、無料Wi-Fiの整備による快適な旅行環境の整備を進めている。今回の規制緩和に伴う訪日外国人観光客の増加が継続し、国内消費が活性化していくことが、現在ネガティブに捉えられている円安に歯止めをかける一つの契機となる可能性がある。

 今年5月に開催された世界経済フォーラム(WEF)で発表された「2021年旅行・観光開発指数レポート」において、日本は2007年の調査開始以来、初めて1位を獲得している。公共交通を含む交通インフラの利便性や正確性、犯罪率の低さなど安全面からの評価以外にも「旅行と観光関連の持続可能性」「社会経済の回復力と条件」「インフラ(社会基盤)」「旅行・観光関連の需要喚起」などが評価されている。

 コロナ以前の5兆円規模に戻るまでは一定の時間が要すると考えられるが、小売業におけるインバウンド向けMDの進化や、情報発信などを通じた需要の喚起など、本格的なインバウンド回復に向けた具体的な施策が求められている。