コラム:コロナ急拡大、GoToトラベル延期と4つの影響の衝撃度

ロイター
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羽田空港
新型コロナウイルスの感染者が急増してきた。政府は2月から「GoToトラベル」を再開する腹づもりだったが、先送りが確実視されている。写真は羽田空港で2020年10月撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)

[東京 7日 ロイター] – 新型コロナウイルスの感染者が急増してきた。日本全体では6日に4000人を突破し、勢いは一段と加速しつつある。政府は2月から「GoToトラベル」を再開する腹づもりだったが、先送りが確実視されている。対面型サービスの回復に水を差し、鉄道・航空などの株価に打撃となる。さらに物価の押し上げ効果や、内閣支持率の低下圧力など、幅広い分野に大きな影響が及ぶと予想される。

デルタ株からオミクロン株への置き換わりが専門家の中で指摘される中、感染拡大がこれまでに経験のないペースで速まっている。6日に981人だった沖縄県の感染者数は7日に1400人を超える見通しになった。

この結果、政府・与党がコロナ禍からの経済回復の「決め手」の1つと位置付けていたGo Toトラベルの再開は、メドが立たなくなっている。共同通信によると、斉藤鉄夫国土交通相は7日の記者会見で、GoToトラベル再開について「新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いていることが大前提だ。時期を申し上げる段階ではない」と表明。明確な再開時期が不明であるとの認識を示した。

観光業界などは今年の春休みを最初の「稼ぎどころ」とみていたが、足元の感染状況を踏まえると、3月後半からの再開は難しいだろう。4月末からの大型連休前の再開も見通せず、うまく行って夏休みからが最も早いシナリオになりつつある。

これが方面に多大な影響を及ぼす発火点になると指摘したい。以下に4つの具体的な波及例を挙げる。

対面型サービス業の失望

最も直接的な打撃を受けるのは、旅行や外食を中心とした対面型サービスの分野だ。GoToトラベルの再開を心待ちにして、この2年間で積み上がった債務の返済へ向けて利益を出そうとしていただけに深刻な状態に直面しかねない。

中小・零細な事業者が多く、すでに目いっぱいの融資を受けているところが多く、さらに我慢の時期が長期化した場合、資金繰りに窮するケースが多発することが予想される。

鉄道・航空各社を待ち受ける苦難

感染者数が減っていた年末に利用者が急回復した鉄道、航空の各社にとっても、コロナ感染者の急増は、経営にとって手痛い事態だ。JR各社の2021年末から22年始の新幹線・特急の利用者は、コロナ感染前の2019年同期の約75%に回復した。感染拡大がなければ、22年中に利用者がさらに増加し、コロナ感染前の水準回復も遠くない時期に実現できるはずだった。

しかし、オミクロン株の急速な広がりは、そうした計画を水泡に帰させる可能性を生み出した。航空各社は需要回復を予期して客室乗務員の採用を再開する動きも見せていたが、果たしてどうなるのか。先読みする株式市場で、鉄道や航空などの株式に売り圧力がかかりやすくなるだろう。

 

CPI押し上げ、夢でない2%

GoToトラベル再開の先送りは、上がり出した物価をさらに押し上げる効果をもたらす。2021年11月の全国消費者物価指数(CPI)では、宿泊料が0.34%ポイントの押し上げ効果を持っていた。その前の年のGoToトラベル実施で下がっていた宿泊料が、「Go Toトラベル」の停止で上昇した分だ。

もし、今年2月からGoToトラベルから再開された場合、その押し上げ分が消えるだけでなく、一定程度の押し下げ効果も発揮されることが予想された。

ところが、夏場までGoToトラベルが再開されないとなると、4月の段階で携帯電話料金の引き下げ分がなくなって1%ポイント強の押し上げ効果がCPIに加わり、そこに食料品やガソリンなどの値上げ分がさらに盛り込まれる。

11月全国のコアCPI(除く生鮮)は前年比プラス0.5%だったが、今年6月全国のコアCPIでは、計上されない携帯電話料金引き下げ分が約1.5%ポイントになっているとみられ、全体で日銀が目標にしてきた2%を達成している可能性も出てきたと筆者は予想する。

岸田内閣に重圧

新型コロナ感染者の急増は、内閣支持率に反映されやすいという見方は、政府・与党内で多数を占めていると思われる。菅義偉内閣時代は典型的で、感染者数が増加すると支持率が低下。感染者数が減少すると支持率が上昇するというパターンが定着していた。

政府・与党にとって頭が痛いのは、オミクロン株の感染力が強く、足元における沖縄県や広島県などの感染者数をみると、急速に増加している点だ。毒性は低いとの見方がある一方で、医学的な証明はされておらず、入院患者数がベッド数を上回って入院できない事態になれば、政権への批判は一気に高まりかねない。

最近の世論調査で60%台の支持率を得ていた岸田文雄内閣だが、オミクロン株への置き換わりで感染者数が急増した場合、取り巻く環境が一変しかねないリスクもある。

このように見てくると、米連邦準備理事会(FRB)のタカ派傾斜という外的な環境変化だけでなく、新型コロナの感染者急増という国内における「衛生問題」に端を発したいくつかのリスク要因も抱えている。

もし、筆者の想定通りに進展した場合、日本国内では、感染者の急増とサービス業の低迷、物価の上昇という「起きてほしくない」現実と向き合うことになり、岸田内閣にとっては非常に問題の多い状況となってしまう。

7月の参院選を前にオミクロン株の流行が「過去の問題」になっているのかどうか。この点が今年の日本の政治・経済情勢を大きく左右する要因として、注目を集めることになるだろう。

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