道工具・建築資材の流通構造を変革し、職人の未来を明るくする
特定のカテゴリーに特化した専門店、総合的な品揃えをしたプロショップ、営業所で手厚く職人をフォローする専門商社。職人が必要なものを揃えるにはさまざまな調達方法があるなか、業態を超えたトッププレーヤーたちはそれぞれ今後のプロ市場をどのようにとらえているのか。
建デポ(東京都)の竹内栄吾社長、小泉(東京都)の長坂剛社長、國貞(東京都)の鈴木進吾社長の3人に業界の未来について話し合ってもらった
※5月12日に開催した「第1回DIAMOND PRO DEALERサロン」の内容をまとめた

建設業界の変化逆風とチャンス
――早速ですが、それぞれの事業環境について、コロナ禍の前後で大きな変化があったと伺います。現在の状況をどのようにとらえていらっしゃいますか。
鈴木社長 コロナ禍の少し前くらいから資材の高騰が始まった。それにつれて、それまで町場の工務店が担ってきたような物件も、ハウスメーカーをはじめとした大手が施工現場に入るようになってきた。コロナ禍が落ち着いてからも、「2024年問題」や、働き方改革、インボイス制度の導入など、当社が主要顧客とする一人親方には厳しい状況が続いている。ただでさえ減少傾向にある職人をどう支えていったらいいのか、私たちには悩ましい問題だ。
竹内社長 確かに建築従事者には逆風となる動きが多い。しかし、そうした時代を乗り切るためのポイントはいくつかあると考えている。

竹内栄吾社長
総合的な品揃えの会員制卸売店を展開。
19年6月からコーナングループ入りし、さまざまな改革を実施した
1つはストック住宅(既存の建物で売りに出されているもの、中古物件)の見直し。新築着工件数は減少しているが、世帯数そのものは2030年まで微増傾向にある。住まいに対する所有欲は変わらずあり、今後はストック住宅への関心が欧米並みに近づいていくのではないか。これは大きなチャンスだと思う。
労働環境、資材の高騰、インボイス制度も、職人には大きな課題だが、少し気になっているのが、25年4月から施行された建築基準法改正による「4号特例」の廃止についてだ。とくに小規模工務店では十分な対応ができていない。改正の概要すら把握していないところも少なくないと聞いている。
職人に対するハードとしてのモノ売りは、われわれの役割として大きいが、情報提供をはじめとしたソフトの部分も充実させていく必要がある。そこが伴わない限り、業界の活性化は難しいのではないか。
長坂社長 お二方が指摘されたこと以外では、職人の高齢化への対応。従事者の減少も相まって、施工を含めた現場での効率化がますます求められている。われわれのチャンスということでいえば、環境対応機器の取り換え等に際しての補助金申請。当社の「プロストック」では、補助金申請手続きのサポートに取り組んでいるところだ。
専門商社と店舗強みと特徴
――今回お集まりいただいたお三方は職人向けのリアル店舗という点では共通していますが、業態として見たときには別々です。めざしている方向も違えば、それぞれ強みとする点も違うかと思います。各社の強みについて教えていただけますか。
長坂社長 われわれは住設機器の専門商社を母体としてプロショップ「プロストック」を運営している。03年に1号店「プロストック仙台南店」(宮城県仙台市)を出店する際、本業の営業所とお客さまの奪い合いになるのではないかという現場からの抵抗があった。

長坂剛社長
住設機器専門商社の大手。
管材、電材、住設機器に特化したプロショップ「プロストック」を関東エリア中心に展開している
それを押し切っての出店になったが、いざ店を出してみると、それまで接点のなかった人たちが利用してくれた。たとえば国内在住の外国人向けに空調の取り換えを行う外国人の職人の来店が少なくない。プロストックを出店していなければ、交わることのなかった顧客だ。
強みとしては、とくに本業で付き合いのあるメーカーは仕入れに関して柔軟に対応してくれるという点。対象業種をある程度絞り込み、深掘りした品揃えを展開できているのは、専門商社としてのノウハウがあるからだ。また数年前からは、商社が休みのときでも、プロストックから同じモノを手に入れることができ、普段の商社ルートと同様の決済処理で対応するというサービスも提供している。商社との付き合いの深いお客さまから「うちの近くにプロストックを出してほしい」といった声も頂くようになっている。

――商社事業と小売事業のシナジーが効いてきたということですね。道具専門店の「道具屋」を展開している國貞さんはいかがですか。

鈴木進吾社長
ゴリラのマークが目印の道工具専門店「道具屋」を首都圏中心に展開。
今年1月に沖縄県に初のFC店舗「糸満道具屋」を出店
鈴木社長 00年に道具屋の1号店「蒲田道具屋」(東京都大田区)を出店した。祖業である金物屋は掛売商売が基本で、その当時、倒産件数も増えていたから、道具屋では現金およびカード決済のみ、職人向けの道具に特化した店になった。当初から「道具屋」というブランドをどうやって独り歩きさせるかにこだわってきており、その施策の1つが、ゴリラをイメージキャラクターにしたことだ。
最近、お客さまが電話で「今、ゴリラの店にいるんだ」と話しているのを耳にする機会があった。少しずつだが、道具屋のブランドイメージが浸透してきているのを実感している。
うちの強みは道具に特化しているところだ。年に1回、2回しか動かないものも置いている。本店(國貞本店)は50年以上、同じ場所で営業してきた(金物屋から道具屋に変わったが)。遠くからわざわざ道具屋を探して、道具を買いに来てくれる職人もいる。
古くからやっていて、ちょっとかゆいところにも手が届く。そういう安心感が強みになっていると思う。

――建デポはコーナン商事(大阪府/疋田直太郎社長)のグループになってから印象が大きく変わりました。竹内社長はどのように建デポを変えてきましたか。
竹内社長 建デポの強みは、品揃えの幅が広いこと。売場面積1000坪クラスの大型店舗では2万8000SKUを品揃えしている。500社を超える仕入れ先があり、商品調達の幅が利く。当然、それに合わせて情報リソースも広くなる。いまや、利益をしっかり出せる職人のためのワンストップ業態になったという自負がある。
建デポは19年6月からコーナングループに加わった。当時の品揃えは売れ筋の1万品目台に絞り込まれていた。そこから全店改装を一気に進めてきたが、「コーナンPRO」立ち上げ時の経験が生きている。
コーナンPRO1号店の「東淀川菅原店」(大阪府大阪市)を出店したのは01年。1000坪の売場をどうやってプロ向けの商材で埋めていくか。大型のホームセンターとして定評のあった店舗で勉強させていただき、金物、工具、木材、合板により約1万8000品目でスタートした。
そこからの約3年は、品揃えのブラッシュアップ。毎日、店舗に通い、お客さんのところに足を運び、店舗に足りないものがあるか、今の困り事は何か、といったことを徹底的に聞いて回った。その結果、品揃えは3万5000品目まで増えた。しかも当初の1万8000品目はJANコードベースで何一つ残っていなかった。そのくらい大がかりな入れ替えだった。
先ほどの長坂社長のお話にも通じることだが、部品1個あればいいというときでも、商社との取引では箱売りでの購入になる。たとえば1箱10個入りなら、残りの9個は職人の手元で眠ったままになる。そうであれば、1個当たりの単価が高くなっても、単品で購入できるほうが、職人にとっては出費を抑えることができる。こういう視点からの品揃えの変更もあった。
これらの取り組みを地道に進めた結果、コーナンPROはワンストップ業態と言われるようになった。この考えを建デポでも踏襲している。







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