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事業そのものをサステナブルに ユニクロのマーチャンダイザーが希望した異動先

小売業において、MD(マーチャンダイジング)といえば商売の中枢だ。ユニクロには、そのMD部から、自ら希望してサステナビリティ部に異動した異色の社員がいる。(株)ファーストリテイリング サステナビリティ部グローバル環境マネジメントチームリーダーの岡田恵治氏(以下、岡田氏)は、2013年にMD部からサステナビリティ部に異動した。以来10年の間、サステナビリティ部の役割が急速に拡張するのにつれ、次々と新たな領域を担当してきた岡田氏の仕事を通して、商品系の様々な取り組みを追った。

マーチャンダイジングからサステナビリティへ

 岡田氏は、2001年にユニクロに中途入社した。店長、SV(スーパーバイザー)の経験を経て2008年に本部に異動し、MD(マーチャンダイザー)の仕事に就いていたが、2011年の東日本大震災の避難者支援ボランティアに参加したことがきっかけで、自ら希望して2013年よりCSR部(現・サステナビリティ部)に異動した。

 被災地で支援から取り残されていたある家族のもとに衣料を届けたときに、「ユニクロさんは来てくれると思ってました」と言われ、自分の作っている服の意味をあらためて考えるようになった。

 CSR部異動当初、岡田氏は、ユニクロの中にこんな部署があったのか、と驚いたという。MD部では計画に沿った業務がルーティン化されていたが、異動したCSR部では業務にルーティンもマニュアルもなく、目標もなければ計画もなかった。部署自体がユニクロの中でも歴史が浅く、自社の事業目標よりも、世の中の動きや必要に応じて形を変え続けてきたからだ。

 2013年当時のCSR部の業務は社会貢献がメーンで、岡田氏も店舗での難民雇用のフォローを担当した。現在はグローバルで100人以上の難民がユニクロで働いているが、当時はまだ4人の難民を雇用したばかりだった。

 「難民スタッフは言葉の障壁もあり、店舗の中で孤立しがちでした。でも一人ひとりに丁寧に話を聞くと、やってみたいことや得意なことがありました。せっかく日本を選んで避難してきて、ユニクロに入社してくれた人たちが、楽しくキャリアを築いてもらえるよう、店舗の中で様々な試行錯誤を重ねました。自分自身も店舗で働いていた経験があるので、彼らの悩みを理解しやすかったのだと思います」(岡田氏)

ファーストリテイリング サステナビリティ部グローバル環境マネジメントチームリーダーの岡田恵治氏

難民支援のため、近隣の学校で出張授業

 ユニクロが取り組んできた難民支援活動の中でも、もっともユニークなのは、社員による近隣の学校での出張授業だ。岡田氏も、講師として出張した。

 その授業は、まず「なぜ服が必要なのか?」という問いかけから始まる。

 すると、裸でいるのは恥ずかしいから、怪我をしないため、といった答えが出てくる。また、人の身分や職業、その人の考えや宗教を表すためでもある。そのほか、サッカーの試合観戦でユニフォームを着るのは、応援している自分の気持ちを表すためだ。

 そうして、服の持つ様々な役割に気づいていく中で、その服が着られない人たちもいること、実は世の中には戦争や迫害、災害などが理由で安全な場所に避難しなければならない「難民」と呼ばれる人たちがこんなにいるということ、そのうちの半分が子どもである事実を伝える。授業の後、子供たちに各学校や地域で半年間かけて子供服を集めてもらい、難民の子供たちに服を届けることがゴールだ。こういった授業を、各店舗のスタッフや店長、ときには、自身が難民であるスタッフが、各地の小中高校に出張して行っている。

 今年10年目を迎えるこの取り組みは、毎年参加校を増やし、2022年の1年間に参加した学校は745校、児童・生徒の数は約8万8千人、10年間累計ではのべ3572校、38万9520人にのぼる。これだけの人数が、子供の頃に難民問題について考える機会を持って社会に出ていっていることを思うと、その活動の意義は計り知れない。

出張授業の様子

脱プラでショッピングバッグを有料化

 2018年に新設された環境チームで、岡田氏は、まず廃棄物を減らすことに取り組んだ。次に、原材料の調達方針、そして、現在はサステナブルな新素材の開発を担当している。

 「その頃、欧米ではすでに脱プラスチックの法制化が始まってきていました。そこで、ユニクロでも、当時、白いプラスチック袋だったショッピングバッグを紙袋に変えていこうと考え、準備を始めました」(岡田氏)

 2020年9月から、ユニクロのショッピングバッグは紙製に代わり、一律10円と有料化が始まった。しかし、このスタートは順風満帆とは言えなかった。

 アパレル業界ではショッピングバッグはブランド認知促進を目的とした販促物の1アイテムという扱いだったこともあり、ショッピングバッグを有料化するということには社内外からの反発がまだ強かった。特にネット上では情報が短絡的に伝わり、「ユニクロは脱プラスチックと言いながら、袋を有料化して儲けようとしているんじゃないか」などと揶揄されることもあった。

 他のアパレルショップではいまだ植物由来原料のショッピングバッグを無料でつけている中で、先んじて有料化を進めたユニクロには大きな葛藤と苦労があったに違いない。

紙製ショッピングバッグとショッピングバッグ有料化の告知ポスター

原材料の調達方針とサプライチェーンの透明性

 岡田氏が次に担当したのは、原材料の調達方針を整えることだ。

 それまでにも各素材担当者の間でそれぞれ基準を設けてウェブサイトなどで公表してはいたが、それらを整理し、「地球市民として、倫理的かつ責任ある原材料調達方法をめざし、原材料の社会・環境への影響を継続的に改善していく」という考えのもと、会社として一つの基準にまとめ上げた。

 「たとえば動物由来の素材を使う場合は、食用の副産物であるものしか使いません。また、ダウン商品の生産に携わるすべての取引先縫製工場がRDS(Responsible Down Standard)の認証(※)を取得しており、生きた鳥からの羽毛採取や強制給餌など、非人道的な扱いを受けていないアヒルやガチョウから採取した羽毛であることが保証されています」 (岡田氏)
※RDS(Responsible Down Standard);ダウン業界で最適な動物福祉の継続的な改善を保証するための国際認証基準。

 これら原材料の調達方針に加え、サプライチェーン全体の透明性を高める努力もしている。2004年からは「生産パートナー向けのコードオブコンダクト」を策定し、労働環境モニタリングへも早くから取り組んできた。コードオブコンダクトに署名した工場だけでなく、その取引先である上流工程の工場や、さらには原材料調達の最上流までを自社で把握しようと、常にやり方を見直している。現在も、自社の従業員による訪問や第三者機関による監査、第三者認証などを通じて、労働環境の確認を進めているところだ。

 サプライヤーリストについても、世界全体の趨勢としても情報開示の流れもあったことを受け、2017年2月から「主要縫製工場リスト」としてウェブサイトで公開し始めた。2018年からはさらに公開範囲を広げ、「主要素材工場リスト」も公開している。

 はじめからすべてが完璧にできていたわけではないが、できるところから着実に改善に向けて取り組み姿勢は、国際NGOなどからも評価されている。

労働環境モニタリングの仕組み

事業活動そのものをサステナブルに

 ファストファッションとは、流行の最先端をいち早く取り入れた、低価格のファッションのことで、製品の多くは大量生産、大量廃棄され、その産業自体がサステナビリティとは真逆にあるように言われている。

 ユニクロも、ファストファッションの代表格と称されることも多い。しかし、ユニクロは、実際、ファストファッションと言えるのだろうか?

 ファストファッションと言われる他のブランドでは、世界のファッショントレンドを追いかけて、多品種を小ロットずつ作り、“売り切りご免”で売り切っていく。それに対し、ユニクロの商品開発は1年以上前から始まり、絞り込んだアイテムを大量に作り込む。作る商品もシンプルで定番的なデザインが多く、世界のファッショントレンドよりも、購入者の声を反映して、同じ商品の素材やパターンを改善しながら何年も作り続けている。

 「低価格」というくくりで一緒にグルーピングされることが多いが、そもそも商品のMD自体が、他のファストファッションブランドとは大きく違うのだ。

 「僕たちが一番やってはいけないと考えているのは、誰も欲しいと思わないような無駄なものを作って、売れ残って廃棄すること。できることなら、お客様が本当に欲しいものだけを作って、それが全部売れて、なおかつ買っていただいたお客様には長く着てもらえるというのが理想です」(岡田氏)

 そのため、ユニクロは大胆なシステム投資により、ここ数年で需要計画、商品計画の精度を大幅に改善した。かつてエクセルを駆使していた頃とは格段の差だ。無駄なものを作らないのは環境のためであるのと同時に、当然利益にもつながっているはずだ。

 「僕たちは、作ったものが最終的にごみにならないよう、寄付、リサイクル、リユースなどの受け皿も作っています。けっして、作りっぱなし、売りっぱなしにしないということです。僕たちの考えるサステナビリティは、事業の一部でやることではなく、事業活動自体をサステナブルにしていくということなのです」(岡田氏)

ファーストリテイリング サステナビリティ部グローバル環境マネジメントチームリーダーの岡田恵治氏

 企業の社会貢献室やCSR部といった部署は、事業経験のないメンバーだけで組織されていることが多い。そういった企業のサステナビリティ活動は、本業で利益を追求し、その利益の一部を使って、事業とは別のところで社会に還元する、という構図だ。しかし、本業の事業自体をサステナブルにしていく、と考えるとき、事業側の経験者が果たす役割は大きい。マーチャンダイザーという商品のコストや生産量を司る仕事をしてきた岡田氏の経験は、サステナビリティ部の業務の急速な拡大にマッチし、さらに加速したのではないかと思う。