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ユニクロのサステナビリティ活動22年の歩みと未来 #2 目指すのは新たな事業モデル

ユニクロが1999年以来のフリースブームで売上を倍々と伸ばす中、同時に社会貢献活動を立ち上げていたことを知る人は少ない。その活動はその後も広範に渡って発展し、いまやサステナビリティ先進企業になっている。
2020年よりサステナビリティ領域を担当するようになったファーストリテイリンググループ上席執行役員の柳井康治氏に、ファーストリテイリングの目指す新たな事業モデル図について取材した。

兄と弟でサステナビリティ活動にコミット

 柳井正会長兼社長(以下、柳井社長)の次男、柳井康治氏がファーストリテイリングに入社したのは2012年。入社直後に担当したのはスポーツマーケティングの領域で、ちょうどテニスのノバク・ジョコビッチ選手(※)とアンバサダー契約を結んだ直後だった。セルビア出身のジョコビッチ選手は、内戦中に空襲警報の鳴る中、テニスの練習をする子供時代を過ごし、社会貢献に対する意識が高いことでも知られている。ファーストリテイリングとの契約においても、「一緒に社会貢献活動をすること」が合意の決め手だったという。
※ノバク・ジョコビッチ選手とのアンバサダー契約は2012~2017年で満了

 2020年より、柳井康治氏はマーケティング領域に加え、サステナビリティ領域も担当するようになった。ニューヨークに駐在している、柳井社長の長男で同じくファーストリテイリンググループ上席執行役員の柳井一海氏も、同じタイミングでサステナビリティ担当となっている。

 「サステナビリティに対して、兄や私がコミットすることで、会社としての本気度が伝わるのではないかと思います」(柳井康治氏)という覚悟である。

ファーストリテイリンググループ上席執行役員の柳井 康治 氏

ファーストリテイリングの目指す新たな事業モデル図

 2021年12月より、ファーストリテイリングは「長期的なサステナビリティ目標とアクションプラン」を発表し、その進捗を毎年報告している。そこで発表したのが、「ファーストリテイリングの目指す新たな事業モデル図」だ。サステナビリティとビジネスの成長を両立するモデルを表すこの図は、その形状から、社内では「バタフライ図」と呼ばれている。

ファーストリテイリングの目指す新たな事業モデル図

 2つのループの中心に「お客様」があり、向かって左側は自社のサプライチェーンのループ、右側はリユース、リサイクルのループだ。

 「これまでは、この左側のループを効率的に高速回転させる、ということに注力してきました。いかに早く、いかに多くのお客様の声を聞いて、原料を調達し、それを商品企画に反映していくか、それをまたいかに早くお客様にお届けできるか。しかし、流通させればさせるほど、それ等の商品はその後どうなるのかという課題が出てきた。そこで、服に第二の人生を歩んでもらう右側のループを作っていこうと考えました」(柳井康治氏)

 ユニクロは、そもそもすぐに捨てられることのない、一日でも長く着られる服作りを目指している。同時に、着終わったユニクロの服を捨ててしまうのではなく店舗で回収し、まだまだ着られる服をもう一度必要な人に届ける、という活動にも取り組んできた。しかし、この2つのループをつなげ循環するバタフライ図にしたことで、事業モデルとして全社で再認識したのだろう。

 「リサイクルには2つあり、服からまた服になる方法と、服から全然違う建築資材などに生まれ変わらせる方法です。服から服というのは、たとえばダウンジャケットを回収したら中のダウンだけを選別して、新しいダウンジャケットに再利用し、リサイクルダウンとして新しい商品に生まれ変わり、左側のループに戻ってくる。そういったものを今後は増やしていきたいと考えています」(柳井康治氏)

最も難易度が高いと感じていることは

 このバタフライ型の循環を成立させる中で、最も難しいのはどこなのか。

 「まず左側にある自社のサプライチェーンのループで難しいのは、環境配慮型の素材や、リサイクル素材の使用割合を50%使っていくという目標(※)ですね。これは技術的には可能なんです。ただし、出来上がった服が本当にお客様にとっての幸せにつながっているかどうか、が大切です。それによって価格が高くなってしまったり、重くなったり、伸縮性がなくなったり、着心地が悪くなってしまったら意味がない。あくまでもお客様に満足していただける価格、品質、デザインをクリアした上で、環境に配慮した素材を50%の商品に採用していこうということですから。最終的に判断されるのはお客様であり、難易度が高いと思っています」(柳井康治氏)
※「長期的なサステナビリティ目標とアクションプラン」において、ファーストリテイリンググループ全体で、2030年度までに全使用素材の約50%をリサイクル素材などに切り替えることを目標として掲げている。

 「もう1つ、右側にあるリユース、リサイクルのループは自分たちだけでは実現できなくて、技術的なパートナーが必要です。そのためには、我々がこういうことを考えてやっているよ、ということをもっと知っていただくようにしないといけないですね」(柳井康治氏)

記者発表会での柳井康治氏

LifeWearとは、循環する服

 ユニクロは自社の作る服を既存のカテゴリーと区別して、独自に「LifeWear」という言葉で表現している。先ほどのバタフライ図では、向かって左側にある自社のサプライチェーンのループには「LifeWearを生み出す」、右側にあるリユース、リサイクルのループには「LifeWearを活かし続ける」と書かれている。

 「Life」と「Wear」という平易な言葉を組み合わせてあるが、もちろんこれは造語だ。ユニクロのホームページでは「LifeWearとは、あらゆる人の生活を、より豊かにするための服」と説明されているが、つまり、このように循環する服という意味もあるのだろう。単なるカジュアルウェアでもなければ、使い捨てのファストファッションなどではない、新しい循環の中で生み出される服。しかもこの循環は、服自体に耐久性が備わっていなければ成立しない。

ユニクロの服はもともとサステナブル

 「もともとユニクロの服は長く着られる服、つまりサステナブルなんです。高品質で丈夫なだけでなく、翌シーズンも、その次の年も着られるベーシックでシンプルなデザインであることも、長く愛用いただける理由です。サステナビリティという言葉がなかっただけで、フィロソフィーとか思想のレベルではずいぶん昔からそういう考え方を持ち続けていました。たとえば創業当初は、コンセプトとして『ユニセックス/ノンエイジ』を掲げていましたが、今の言葉で言ったらジェンダーレスやダイバーシティ&インクルージョンなんでしょうね」(柳井康治氏)

 数年前から、ユニクロのテレビコマーシャルでも、この「LifeWear」という言葉を聞くようになった。そこに「循環する服」という意味が込められていたことに気づくと、今までとはまた違う意味で、ユニクロの服を着てみたいという気持ちになった。

 「第2回 ユニクロのサステナビリティ活動22年の歩みと未来 #3 『ドラえもん サステナモード』の誕生」は6月4日(月)掲載。ファーストリテイリンググループ執行役員の遠藤真廣氏に、『ドラえもん サステナモード』について取材した。