不当要求・カスハラ・迷惑行為から小売業が受ける想像以上の大きな「損失」とは

西尾 晋(エス・ピー・ネットワーク執行役員・総合研究部担当/主席研究員)
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時間的・金銭的ロスも発生する

不当要求やカスハラ、迷惑行為などは、企業に時間的・金銭的なロスももたらす。
企業としての回答・対応は変わらない状況であるにもかかわらず、自身の要求を飲ませようと不当要求やカスハラを執拗かつ長時間に渡って行う輩も少なくない。このように、対応できないことを無理強いされて延々と時間を浪費されると、企業としては、他の業務の停滞やほかのお客への対応遅延をまねく。さらに、このような行為により、ほかのお客に迷惑を掛けることになれば、それによる企業の信頼失墜も加味すれば、企業が被るロスは甚大である。

また、SNSにアップされるかどうかを問わず、迷惑行為が行われれば、それへの対応や事後処理・改善策の実施、事件化などの本来やらなくてもよいことに時間を使わざるを得ず、企業として時間的なロスが生じてしまう。さらに、SNSなどに投稿された場合は、それを模倣する輩もいるため、その対応を余儀なくされることになる。

時間の浪費はビジネスチャンスの喪失やコスト増にも繋がりかねないことから、企業にとっても見過ごすことのできないロスと言える。

さらに、不当要求やカスハラ、迷惑行為への対応に際しては、お客から本来支払われるはずの金銭や費用を受け取れない、もしくはお客に払う必要のない金銭を払わされることになりかねないため、企業として、金銭的なロスも生じてしまう。とくに、店舗展開する小売業は薄利多売での経営を余儀されている場合が多く、金銭的なロスが及ぼす影響は大きい。

一方的に負わされる風評リスク

 さらに、迷惑行為がSNSなどで拡散されると、類似行為を含めて、模倣犯が発生したり、インターネット上での詮索・拡散により店舗が特定されたり、似たような店舗に問い合わせや抗議の電話が入ったりと、被害者たる企業側が一方的に風評リスクを負わされることになる。

 こうした当事者でもないのに抗議の電話をする、いわゆる「電凸(電話突撃)」も相変わらず行われている。しかもその大半はインターネット上の信ぴょう性に乏しい情報を一方的に信じ込んで、自説に基づく主張を延々と繰り返すものだ。また、迷惑行為が行われた店舗に来店し、自身は迷惑行為をしないまでも、店内などを撮影してその様子を同じようにSNSにアップするなどの冷やかし行為も後を絶たない。これらももちろん迷惑行為にあたる。

 迷惑行為がSNSにアップされると、さらなる迷惑行為を引き起こす。こうした迷惑行為の連鎖への対応を余儀なくされる現場の負担は、非常に重い。さらに迷惑行為がSNSなどで拡散され、ニュースにも取り上げられることで、上場企業の場合は、株価への影響が生じたり、株主や取引先からの問い合わせが寄せられたりするケースもある。

 企業としては株主へ誠実な対応をせざるを得ないなかで、一部の株主が企業の回答できる範囲以上のことを執拗に聞き出そうとするケースも見られる。このような一部株主からの不当要求への対応も必要になる場合があり、企業が一方的に負わされる風評リスクは、現場に限った話ではない。

不当要求・カスハラ・迷惑行為への対処法とは…

 上記のような迷惑行為などによるロスや一方的に企業が負わされるリスクを踏まえ、企業は迷惑行為に対して、毅然と対応していくことが重要となる。次回以降、カスハラや迷惑行為に対する対処法について、具体的な対応要領をいくつか紹介していく。

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