連載 小売業とM&A 第6回:総合スーパーにおけるM&A活用の方向性
3. GMS復活のカギ―いかに存在意義を取り戻すか
(A)衣食住にこだわらないことで成せる再建
先述のとおり、かつてGMSが担っていた「日常の買物+週末の娯楽」という提供価値は、主要顧客である女性の就労率の上昇とともにモデルとしての限界を迎えた。大半のGMSは新たな生活スタイルに照らすと、非常に中途半端なワンストップショッピングの館と化してしまった。
そこで商圏の住民の取り戻しをかけ、来店頻度や滞留時間を上げるべく出した答えの一つが、GMSの代名詞である「ワンストップ」から“衣”と“住”を大幅に削ぎ落とした、「生活必需品に絞り込んだワンストップ」ではないだろうか。
近年の成功フォーマットとしてよく耳にする「フード&ドラッグ」はまさに一つのかたちである。これを謳う代表格の一つであるイトーヨーカ堂(東京都)も、非食品を圧縮するかたちで衣食住を総合的に扱う店を減らし、衣・住からの離脱を進めている。祖業である衣料品に誇りとこだわりを持ち、勝負をかけて挑んだ新ブランドであるファウンドグッド(アダストリアが企画・生産し、イトーヨーカドーで展開していたアパレルおよび生活雑貨ブランド)との決別までに時間がかからなかったことも昨今の事例である。
今後は、その時代に合った“いま求められている生活必需品”をいかに充実させていけるかが、このフォーマットを確固たるものにする必須要件となる。
(B)儲けは薄いが必要な“箱”としての生き残り
本稿第1章にて消費者ニーズの取り込みに対する百貨店との違いに触れたが、もう一つの違いはそのビジネスモデルである。百貨店は多階層で潤沢な売場面積を活かし、魅力的なコンテンツをリーシングで誘致するノウハウを積み上げてきた。一方で、GMSはワンストップショッピングが表すように、自前の商品での売場編纂によって館の魅力向上を図ってきた。この、リーシングと自主編纂の双方が徐々にドッキングされ、今ではGMSの広大な売場を埋めるためにはリーシングが欠かせない。
いくつかのGMSが体現するように、その巨大な箱にグループ商業施設を形成するためのコア店舗というミッションを与えることに成功した館は生き残っている。その存在意義は箱であるがゆえに、周辺事業で儲かればGMSのみ抜き出して利益率が低くてもよいという割り切りも一つの考え方である。
(C)データ活用型での復活
PPIHが長崎屋やユニーを買収し、GMSの再生請負人となった背景には、両社に不足していた、徹底的な顧客ニーズの分析と汲み取る力を養成したことにある。PPIHの徹底した現場主義に起因するPOSデータ分析で、店舗は情報の宝庫であるという理念を本部主義のGMSに叩き込んだ。いうまでもなく、店頭での顧客接点から得られるリアルな消費者の反応や熱量も非常に重要であるが、顧客を知るにはその購買データや消費者の属性情報等が重要となる。
イオンも同様に、データ活用に活路を見出そうとしている。19年に英ネットスーパー専業企業のオカドグループ(Ocado Group)傘下のオカドソリューションズ(Ocado Solutions)と、国内における独占パートナーシップ契約を締結。新設した事業会社イオンネクスト(千葉県)のもと、最先端のITを導入した顧客フルフィルメントセンターを物流拠点に、23年には次世代型ネットスーパー「Green Beans」を始動している。
今後は、自社での購買データ活用にとどまらず、データ販売によって収益化を図るGMSが増えていくだろう。購買データと属性データを統合・整備し、分析可能な状態へと高度化した“販売可能なデータ資産”を持つことが、次の競争軸となる。
現代のGMSにとって量産あるいは単純に横展開が可能な成功フォーマットはほとんど存在しない。したがって、出店立地や取り込むべき商圏の特徴や事業機会に応じたフォーマットの見極めが重要であり、こうしたGMSの柔軟なトランスフォーメーションを実現するための機能強化・獲得が増加していく可能性が高い。
とくに地方商圏においては、広域居住から都市部に人口が集中し始め、生活圏がコンパクト化していく動きが見られることから、週末も平日も同じ生活スタイルを送る住民に向けた館の存在価値は高まる。従来の食に基軸を置きつつも、様々な専門店からクリニックモールやコミュニティー施設までを備え、1カ所で生活の大半を済ませられる“地方インフラ”への転換はその社会的意義も含め一つの成功パターンとなり得るだろう。
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