連載 小売業とM&A 第5回:家電量販におけるM&A活用の方向性
国内の家電量販業界は、ほかの小売業態に比べて市場規模が小さい。経済産業省「商業動態統計調査」によれば、2024年時点で約4.8兆円にとどまり、スーパーマーケット約15.6兆円、コンビニエンスストア約12.8兆円と比べても規模の差は明らかである。こうした状況下で、各プレイヤーは自力での店舗拡大やM&Aを通じた寡占化を進める一方、一部では周辺事業への展開にも取り組んできた。しかし今後は市場の縮小均衡に加え、異業種との競争が一層激化することが予想される。そのなかで、既存事業の差別化や周辺領域の強化、新たな市場への参入が求められる。これらを実現するには新たなケイパビリティの獲得が不可欠であり、M&Aはその有効な手段となり得る。本稿では、家電量販業界の変遷を振り返りつつ、今後の成長に向けたM&A戦略の方向性を探っていく。

国内家電量販業界のこれまでの変遷
戦後復興と家電量販店の誕生
家電量販店のルーツは、太平洋戦争後の1940年代後半頃に遡る。当時、秋葉原駅周辺にアメリカ軍が放出した軍事物資や電気部品を売る露天商が集まるようになったことが発祥とも言われている。その後50~60年代になると、戦後復興や高度経済成長と共に「三種の神器」と呼ばれた洗濯機、冷蔵庫、白黒テレビなど家電製品が家電市場を急速に拡大させた。1970年代に入ると、大型の家電量販店が台頭し始め、業態としての黎明期を迎える。今日の大手家電量販店においても、この時代に創業した企業は多い。
M&Aによる業界再編と周辺領域への事業の拡大
国内家電量販業界におけるM&Aは、企業の生存戦略として極めて重要だ。その変遷は2つの年代に分けて見ることができる。
まず2000年代にはロールアップ型M&Aが活発化し、業界再編が大きく進行した。代表例が、エイデンのような地域家電量販店とデオデオとの統合によるエディオン(大阪府)設立、ビックカメラ(東京都)によるコジマ(栃木県)の買収である。このような業界再編を経て、ヤマダホールディングス(群馬県)、ビックカメラ、ヨドバシカメラ(東京都)、ケーズデンキ(茨城県)、エディオンの5社が市場の約9割を占める寡占状態が形成された。この寡占市場において、ECプレイヤーの台頭や他業態の家電事業参入も影響し、各社は次の成長ステップを模索することとなった。

10年代以降、各社は飽和した既存市場にとどまらず、周辺領域へ事業を広げるためにM&Aを活発化させた。具体的なM&Aの事例としてヤマダホールディングス、ノジマの取り組みを(図表1)に示しているが、商品やサービスあるいは販路そのものを拡充することで消費者のウォレットシェア拡大を目的とした動きであると言える。
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