連載 小売業とM&A 第5回:家電量販におけるM&A活用の方向性

前島有吾(PwCコンサルティング 執行役員)
前田真史(PwCコンサルティング シニアアソシエイト)

家電量販業界が着目すべき今後の市場変化

 前述の通り、国内家電量販業界は既に寡占化が進んでおり、周辺領域への事業展開も一定の取り組みが始まっている。こうした状況を踏まえると、既存事業の差別化、周辺領域の強化、新たな市場への参入という3つの視点から、今後注目すべき市場変化は次の5点である。

① 実店舗に求められる提供価値の変化

 インターネットの普及により、誰もが手軽に商品を検索・比較・購入できるようになった。その一方で、実店舗が提供する「体験価値」の重要性はむしろ高まっている。「PwC消費者調査2024」によると、消費者が実店舗を選ぶ理由の上位3つに「独自サービス」がランクインしている。

 この独自サービスとは、オンライン購買が一般化した現代において、実店舗ならではのエンタメ性や高揚感を追求する取り組みを指す。具体的には、インタラクティブなショッピング体験、パーソナライズされた接客、心地よい空間デザインなどである。

② 循環型社会実現に対するプレッシャーの高まり

 近年、SDGsへの社会的関心の高まりを背景に、サーキュラーエコノミー(循環型経済)が注目されている。資源を効率的に利用し、廃棄物を最小限に抑えるこの考え方は、家電製品においてとくに重要である。家電は金属やプラスチックといった多様な資源を大量に消費し、その製造や廃棄が環境に大きな負荷を与えるためだ。

 こうした動向は法規制にも反映されている。25年に改正された資源有効利用促進法では、再生資源の使用義務化や環境配慮設計が定められた。制度設計の議論にあたって、経済産業省の資源循環経済小委員会は家電製品を対象製品の一つとして取り上げている。具体的な内容は検討段階にあるが、家電事業者には再生材の利用状況の報告や、解体・分別の容易さを考慮した設計が義務付けられる可能性が高い。

③リユース市場の拡大

 現代の消費者においては、リユース商品を選ぶ人々がメジャー化しつつある。PwCが実施した日本消費者調査(24年度)によると、リユース商品の利用経験があるまたは利用意向がある消費者は全体の54%を占める。なかでも、合理的な購買を志向するセグメントでは72%と高水準であり、経済合理性や環境配慮といった心理が背景にあると考えられる。

 このような消費者動向を踏まえ、国内のリユース市場は成長基調にある。「リユース経済新聞」によると、23~30年に国内リユースの市場規模におけるCAGR(年平均成長率)は+3.6%を示し、約4兆円に達すると予測されている。

④ 高齢化社会で拡大する医療ニーズ

 高齢化が進行するなか、日本国内では医療ニーズが年々高まっている。実際に、厚生労働省「医療費の動向調査」よると国内の医療費は19年から23年にかけて約4兆円増加し、総額47.3兆円に達している。また、厚生労働省は、第4期医療費適正化計画において、複数のニーズを持つ高齢者への効果的な医療提供を課題として掲げ、保険者と医療関係者との連携強化を進めている。一連の取り組みは、医療ニーズに効果的・効率的に応えるために年々増え続けている。

⑤ 海外市場の高まるポテンシャル

 国内市場が縮小傾向にある一方で、グローバル市場では依然として成長の余地を秘めている。グローバル市場調査会社のユーロモニター(Euromonitor International)によれば、20~24年に世界の家電量販店市場はCAGR+4.1%を記録している。とくにアジアは中国・インド・ASEANを始めとした経済成長が著しく、今後の市場拡大が期待できる。加えて、地政学的優位性や若年人口比率の高さによる労働力確保のしやすさも、進出を検討する企業にとって魅力的な条件となっている。

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