小売業とM&A 第2回:百貨店におけるM&A戦略の方向性

前島有吾(PwCコンサルティング 執行役員)
佐藤 永織(PwCアドバイザリー ディレクター)

2.百貨店が着眼すべき今後の市場変化

 以下4つの変化に正面から向き合うことで、外部環境の変化をプラスに変換することができると考えられる。

①消費者ニーズの多様化のさらなる進展 

 健康志向やエシカル消費などを含め、消費者ニーズの多様化は今後も進展するとみられる。経済産業省 産業構造審議会の『新しい健康社会の実現』によれば、「健康づくり(ヘルスケアサービス)」市場は20年の18.5兆円から50年には59.9兆円へと大幅に拡大する見込みである。
 エシカル消費についても、認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパンによれば、国内フェアトレード市場規模は過去10年で2倍に増加し、2024年度は215億円に達した。従来の価格や品質に加え、多様な価値観に基づく消費が今後も普及していくと考えられる。

②富裕層の購買力の増大

 World Inequality Database(世界不平等データベース)によると、国内所得上位10%層の国民総所得に占める比率は1990年の41%から2020年には44%へ拡大した。今後、突出した富裕層の存在感がさらに高まることで、百貨店にとっては重要な顧客層となる可能性がある。

③地方百貨店の撤退に伴う地方富裕層の消費余力の増加

 地方在住の富裕層の消費意欲は依然として高い一方、日本百貨店協会によると25年現在、百貨店が存在しない都道府県は全国で4県となっている。各社は本店外商サービスの強化や外商顧客向けイベントの実施など、地方富裕層の取り込みを進めているが、取り組みは限定的であり、今後は地方富裕層市場への戦略的なアプローチがより一層求められる。

④インバウンドの増加

 観光庁「インバウンド消費動向調査」24年の結果によれば、訪日外国人旅行消費額はコロナ前の2019年比で69.1%増の8.1兆円と過去最高を記録した。そのうち3割程度が「買物代」とされており、インバウンド関連売上は百貨店の業績を大きく支えている。今後もインバウンド顧客は重要なターゲット層となる。

1 2 3

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2025 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態