【新連載】小売業とM&A 第1回 成熟市場の先にあるもの

前島有吾(PwCコンサルティング 執行役員)
野寺大輔(PwCアドバイザリー ディレクター)
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今後起こり得るM&Aの4つの方向性

 こうした環境変化を踏まえ、今後起こり得るM&Aの方向性として次の4つが考えられる(図表3)。

図表③直面する大きな環境変化

①川下での水平統合のさらなる加速

 将来的な市場縮小やコスト上昇、事業承継問題といった環境変化を背景に、小売業界における川下領域での水平統合はいっそう加速するとみられる。日本の小売市場が依然としてフラグメントな構造を維持していることも、こうした動きの主因となっている。

 実際、イオン(千葉県)はこれまでにウエルシアホールディングス(東京都)、キャンドゥ(東京都)、ダイエー(東京都)などをM&Aにより傘下に収めてきたほか、27年までにツルハホールディングス(北海道)を子会社化する計画を公表している。イオンは首都圏と地方を問わず、積極的な水平型M&Aを推進しており、この戦略を今後も継続すると見込まれている。

②グローバル市場への展開

 国内市場の縮小や競争激化といった環境変化を受け、M&Aを活用してグローバル市場に成長機会を求める動きも加速するとみられる。グローバルインフォメーション「小売業界の世界市場」によると、世界の小売市場は、23年に28兆6803億米ドルと評価されている。31年には51兆5547億米ドルに達する見込みであり、24~31年の年平均成長率は7.7%と予測されている。

 グローバル展開を進めるセブン&アイ・ホールディングス(東京都)は、従来の主戦場である日米に加え、ベトナムやオーストラリアのライセンシー企業に出資し、今後もこうした動きを一段と強化する方針を打ち出している。

③コンテンツ獲得の強化

 ECプレイヤー含めた業態の垣根を越えた競争が激化するなか、コンテンツ獲得を意識したM&Aも拡大するとみられる。動機としては、複雑化する消費者ニーズに対応し、競争を勝ち抜くための独自性確保に加え、単にモノを仕入れて売るだけのビジネスモデルでは避けられない価格競争による消耗戦を回避するねらいがある。

 たとえば、近年勢いを増している「ロピア」を展開するOICグループ(神奈川県)は、これまで、輸入食品販売会社を手掛けるユーラス(神奈川県)や食品メーカーの丸越醸造(愛知県)のほか、直近では洋菓子の製造・販売を手がけるサンセリーテ(トシ・ヨロイヅカ)など20社近くを傘下におさめており、食のSPA(製造小売り)化を進めている。

④事業の取捨選択によるカーブアウトの増加

 企業が経営資源をより収益性の高い事業に集中させ、企業価値や株価の向上を図る動きが活発化している。背景には、アクティビストによるプレッシャーの高まりがある。

 象徴的な事例として挙げられるのが、セブン&アイ・ホールディングス(東京都)によるそごう・西武(東京都)の売却、および現在進行中のヨーク・ホールディングス(東京都)の売却だ。これらの背景にアクティビストからの要求があることは、各種報道でも繰り返し指摘されている。

 ここまで、国内小売業の変遷と今後想定されるM&A動向について概観してきた。ただし、小売業と一括りにしても、業態ごとに置かれた状況は大きく異なる。連載の第2回以降では、グローバル動向も踏まえつつ、各業態の現状を詳細に分析し、今後起こり得るM&Aの方向性について論じていきたい。

 

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