西友買収のトライアル、そのビジネスモデルの強さを小売ウォッチャーが解説!

中井 彰人 (株式会社nakaja labnakaja lab代表取締役/流通アナリスト)

愚直な先行投資がついに実を結ぶ!?

 今回の西友を傘下に加えたことで、トライアルは国内食品流通において、決勝リーグに進める存在となった。とくに、手薄だった首都圏の店舗網拡充は何ものにも代えがたいだろう。

 図表③はトライアルと西友の店舗図、そして大都市圏での都道府県別店舗数だが、首都圏における補完性が大きいことは一目瞭然であろう。既利用地で埋め尽くされている東京、神奈川では、商業好立地の大量確保は至難の業であり、大型M&A(合併・買収)をもってしか得られない(それも売り玉がなければ得られない)。上場を達成し、資金調達可能な財務基盤を整えた後に、西友買収という好機を得たトライアルは、幸運だとしか言いようがない。

 国内最大のマーケットに橋頭保を得たトライアルは、この日のために、大都市マーケットの隙間を埋める小商圏型店舗を準備していた(図表④参照)。西友店舗を起点として、IT、物流インフラの力を背景とした小型店を展開することで、その存在をさらに増していくこともできるだろう。

 トライアルはずいぶん昔から、「Skip Cart」(セルフレジ機能を搭載したショッピングカート)、顔認証セルフレジなどのITの実装、そして外販などを行う「リテールAI事業」を内製化していることを、会社のウリとしてその将来性を説明してきた。ただこれまで、そのインフラは整備途上であって、その成果が業績に十分反映されてはいなかった。

 しかし首都圏で西友店舗網を得たことで、彼らが唱えてきたITインフラの力は実証され、目に見える成果となる可能性がある。インフラ構築に過剰なほど先行投資をかけてきた愚直なトライアルが、その真価を発揮するのはこれからなのである。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト

みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。

2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。

2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。

主な著書「小売ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング社)「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、DCSオンライン他、月刊連載6本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。東洋経済オンラインアワード2023(ニューウエイヴ賞)受賞。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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