西友買収のトライアル、そのビジネスモデルの強さを小売ウォッチャーが解説!
懸案だった生鮮・総菜の課題も克服
個人の感想になるが、そんなトライアルだからこそ、かつては弱点もあると感じていた。それはトライアルが効率的インフラ構築を徹底的に追求するがために、労働集約的で非効率な生鮮・総菜売場の運営がうまくない時代があったということだ。これには別の背景があるとも思っているのだが、彼らが世界最高の小売業としてベンチマークして、いわば”完コピ”しようとしてきたお手本がウォルマートであったことに起因すると考えている。
誰もが認めるウォルマートのインフラのつくりはすごいことは間違いがないのだが、それこそ日本に進出してくだんの西友を再建しようとしたものの、結果的には撤退することになった遠因と同根でもある。
これを伝えるためには、日本の特殊な生鮮・総菜売場の運営方法を説明する必要がある。鮮度を重視する日本の消費者に適合するために、一般的に食品スーパーの生鮮売場は売場の裏側(バックヤード)に商品を小分け、パック詰めする(流通加工という)ための加工場を設けている。この場所でパック詰めしたことをアピールするために、壁をガラス張りにして見えるようにしている店舗も多い。
この手法がスタンダードになっているため、食品スーパーは集中的に流通加工するプロセスセンターといった設備の導入が進まず、他の小売業に比べても労働集約的な収益構造となっているのだ。
このため、チェーンストアのメリットである規模の利益が働かず、生産性が低いことが課題となっていた。ウォルマートのようなチェーンストア理論を実践するグローバル大手にとっては、理解しがたい非効率であっただろう。しかし日本の消費者がこのやり方を支持しているため継続せざるを得なかったのだが、これに関して効率性を改善する手立ては持っていなかった。結果、日本市場はグローバルスタンダードを受け入れない特異な市場であるとして、放棄することを選んだと考えられる。

西友の再建がかなりの時間を要したことも、こうした背景が大きく影響したと考えられる。近年、西友の業績は持ち直し、今回のエグジットを迎えるに至った。その要因としては、不採算店舗、不採算売場の整理を進めたことに加えて、日本のスーパー業界を知り尽くした辣腕(らつわん)経営者、大久保社長が、日本市場の特異性も踏まえたかじ取りを行ったことも大きいように思われる。
こうした事情はそのまま、かつてのトライアルにも当てはまる。ウォルマートを範とするトライアルにとって、日本における生鮮、総菜のお手本が存在していなかったからである。
しかし近年のトライアルは大きな変貌を遂げている。前述の「事業計画及び成長可能性」(P22)を見るとわかるが、商品ミックス戦略の軸となっているのは、フレッシュ(生鮮・総菜のこと)を中心とした高粗利益率カテゴリーの構成比の向上」となっている。まさに商品面では日本型にローカライズを進めたことをアピールしている。
事実、トライアルのフレッシュの構成比率は年々拡大しており、消費者にも受け入れられていることが実績でも確認できる。かつて、安さでは負けても生鮮で勝てると揶揄されることもあったトライアルの生鮮だが、今では業界関係者の多くが脅威として認識するようになっている。トライアルは、チェーンストア理論の具現者としてのインフラ整備をしつつ、日本市場に合わせたローカライズにも成功したことで、1兆円企業にふさわしいビジネスモデルを確立したといえる。
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