驚異のローコスト経営も、売上下がればフツーの店 販管費“率”が見せる幻影とは

千田 直哉 (編集局 局長)
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「販管費“率”」のマジックとは?

 

 販管費率の分母は売上高だ。ということは、価格で徹底抗戦する企業が出現し、売上高を半減させてしまえば、販管費率は2倍に跳ね上がってしまうわけだ(単純に流動コストはないものと想定します)。

 実際、ダイクマは、同じようなディスカウンターが続々と出店するようになった1990年代後半から業績を悪化させた。神奈川県内ではアイワールド、埼玉県内ではロヂャース、またその他、ホームセンター、ドラッグストアとの激しい競合にさらされた。

  また、多店舗展開を繰り返すうちに、自社競合(=カニバリ)を起こし、1店舗当たりの商圏人口がどんどん縮んでいった。繁盛店の茅ケ崎店は、最盛期には100万人規模の商圏人口を抱えていたが、多店化の中で20万人くらいまでに萎んでしまう。

  誰もかなわないと思われた鉄壁のローコスト経営は、実は、案外もろく、売上激減で販管費率は上がっていくという顛末を迎えた。

 ダイクマは、ディスカウントストアではなかったのである。

  もっとも、その当時にイトーヨーカ堂の社長であった鈴木敏文氏は「ダイクマはローコスト経営ではない。売上高が極端に大きいので結果として販管費率16%になってしまうだけだ」と看破していた。

 結局、ダイクマは経営不振に陥り、20025月にアイワイグループ再編の一環として総合家電量販店チェーンのヤマダ電機に売却された。

 「打率10割の凄いバッター」と聞くと、一見、抑えられなそうに思えるが、その内容が「1打数1安打」だとするならば、打率のことはまったく気にする必要がないのと似たようなものだ。

 当たり前のことかもしれないが、率を見る場合は、常に分母がなんであるのかに注意する必要がある。

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記事執筆者

千田 直哉 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局長

東京都生まれ。1992年ダイヤモンド・フリードマン社(現:ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。『チェーンストアエイジ』誌編集記者、『ゼネラルマーチャンダイザー』誌副編集長、『ダイヤモンド ホームセンター』誌編集長を経て、2008年、『チェーンストアエイジ』誌編集長就任。2015年、『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長(兼任)就任。2016年、編集局局長就任(現任)。現在に至る。
※2015年4月、『チェーンストアエイジ』誌は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌に誌名を変更。

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