職場風土そのものが変化! 万代の「身だしなみ基準緩和」がもたらした意外な効果
従業員の髪色やネイルの自由を原則容認──。関西の食品スーパー大手の万代(大阪府)が4月から「身だしなみ基準」の大幅な緩和に踏み切った。背景にあるのは、多様性の尊重と採用競争激化への対応だ。店舗や組合の対話を重ねて実現したこの改革は、制度変更にとどまらず、職場風土そのものを変えつつある。

新基準導入に踏み切った理由とは
4月1日、万代は従業員の「身だしなみ基準」を大幅に緩和した。同社はこれまで髪色やネイルなどに細かい規定を設け、現場でも厳格に運用してきた。しかし、今回の新基準では「清潔かつ衛生的であり、お客様に不快感を与えない事」「安全性と作業性を考慮し、業務に支障がないこと」を判断基準として考慮した上で、頭髪、化粧、アクセサリーの着用、ネイルについては「自由」としている。
この新基準の導入は、従業員の働きやすさを高め、多様性を尊重するという社会的な流れに沿ったものであると同時に、採用競争の激化に対応するねらいもある。とくにアルバイトやパート従業員を採用する際、従来の基準では「髪色が規定外のため応募を辞退する」というケースが散見された。とくに学生アルバイトの場合、夏休み期間や就職活動終了後に、「髪色やネイルなど、自分らしいおしゃれを楽しみたい」という若年層特有のニーズがあり、これまでの規定は応募を躊躇させる要因になっていたのである。
また、同業他社における身だしなみ基準の緩和が進むなか、万代だけが従来の厳しい規定を維持し続ければ、人材獲得競争で不利になりかねないという懸念もあった。万代ユニオンで中央執行委員長を務める松末祥司氏は「採用力の低下は経営上のリスクとなるため、従業員を確保する観点からも、基準の見直しが急務だった」と振り返る。
こうした事情を背景に、万代ユニオンは24年春、会社側に対して初めて身だしなみ基準の緩和を正式に要求した。前向きには受け止められたもののすぐに妥結には至らず、会社との継続的な協議を1年間にわたって行い、25年2月に再度要求書を提出。同年4月からの制度変更につなげた。
広報誌を活用し、全社に緩和を周知
4月に身だしなみ基準を緩和して以降、万代の現場では明確な変化が生じている。とくに若年層の従業員は待ち望んでいたかのように髪色を明るく染めたり、ネイルを楽しんだりする姿が増加。導入直後から、「ずっとやりたかった」「自由になって嬉しい」といった前向きな声が多くあがった。

一方で、長く働いてきたベテラン従業員の一部には戸惑いも見られた。「誰もやらないから自分もやりにくい」「自由になってもどうしていいかわからない」といった声が挙がったのだ。そこで、店舗ごとの温度差を埋めるため、労働組合は積極的に新基準を広報する活動を開始した。
万代ユニオンは新しい身だしなみを楽しむ従業員の姿を写真つきで広報誌に掲載。社内全体に向けて「自由におしゃれを楽しむことが会社として認められている」というメッセージを視覚的に伝える工夫を行った。これにより、自店舗ではまだ浸透していなくても、全社的には「身だしなみ自由」の流れが確実に進んでいることをアピールし、各店舗での積極的な導入を促した。
また、「新しい基準でも清潔感は守るべき」という共通認識を浸透させることで、おしゃれと業務上の適正さを両立させる工夫も行われている。結果として、導入から間もない現在に至るまで、顧客からのクレームはほぼなく、むしろ従業員同士がお互いのネイルや髪色に関する話題を頻繁にするようになったことで、従業員同士のコミュニケーションが活発化するという予想外の効果も現れている。






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