米中西部の注目リージョナルスーパー「ハイヴィー」に今、注目すべき理由
取り巻く環境が急変するなか、米国のスーパーマーケット業界はメガチェーンを中心とした寡占化の動きがいっそう強まりつつある。その一方で、地域に根差しながら支持を集め、安定した成長を続けるリージョナル、ローカルチェーンの存在感も大きい。
ウェグマンズ、パブリックス、HEBなどの強さは日本の流通関係者もよく知るところかもしれないが、ハイヴィー(Hy-Vee)がフォーカスされることは少ない。同社は米中西部を本拠に、“挑戦”を是とする社風のもと、店づくりやデジタル活用で革新的な取り組みを続けている。

アメリカの食品小売業界の日本との大きな違いは、ウォルマートやコストコのような従来型のスーパーマーケット以外の、代替型(オルタナティブ)と呼ばれるフォーマットの食品シェアが高い点にある。
この代替型を除き従来型SMだけに焦点を絞ると、クローガー(年商約1500億ドル、2722店舗)、アルバートソンズ(年商約792億ドル、2269店舗)、アホールドUSA(年商約590億ドル、2048店舗)が上位3社で、そしてその下に、パブリックス、HEB、ハイヴィー、ウェグマンズ、ジャイアントイーグル、ウィンコといった強いSM企業が名を連ねる。
私の印象を言うと、上位3社の店舗力は年々下降気味で、4位以下のSM企業はその逆に年々勢いを増しつつある、といったところである。
ちなみにクローガーは35州、アルバートソンズは40州に店舗を展開しているが、集中出店しているのは双方ともに20州以下に過ぎず、全米各州に店舗展開していないという意味で両社は実はナショナルチェーンではない。つまり“上位のナショナルチェーン”や、“その下のリージョナルチェーン”というカテゴライズによる比較は、本当は無意味なのである。
「ナショナルチェーンだから標準化が進んでいる」や、だから「リージョナルやローカルによる個店対応に負けている」という論は根拠に弱い。上位3社が下降気味なのは、単純に組織力の劣化だろうと思っている。
さてその強いSMのうち、パブリックスやHEBは有名だが、ハイヴィーの知名度は日本では低い。しかしながらアメリカの小売業界では、ハイヴィーに対する評価はパブリックスなどに引けを取ることのないレベルなのである。
年商は130億ドル前後、米中西部から南部に展開
ハイヴィーの年商は、全米小売業協会(NRF)による「Top 100 Retailers 2024」では125億4000万ドル(対前年比2.3%増)で38位、ギャップの1つ下、ウェグマンズの1つ上に位置している。
またプログレッシブグローサー誌が24年5月に公開した「PG100」だと135億ドル(同5.6%増、店舗数285店舗)で、EGアメリカ(コンビニ)の1つ下、ウェグマンズの1つ上というランキングである。非食品も含めるとギャップクラス、食品業界だとウェグマンズより少し上のクラス、これが同社の売上高規模感となる。
創業は1930年、創業者はチャールズ・ハイド(Charles Hyde)とデイヴィッド・ヴレデンバーグ(David Vredenburg)で、創業地はアイオワ州ビーコンズフィールドである。ハイヴィーという屋号はハイドとヴレデンバーグのアルファベットをつなげたもので、1952年に採用されている。
アイオワ州はシカゴがあるイリノイ州の左横にあり、中西部にくくられる。本社は首都があるデモインズで、ここを中心にして、カンザス州、ミネソタ州といった周辺の各州に展開、そしてケンタッキー州やテネシー州といった南部へと版図を拡大しているところである。
堅牢な組織体制と挑戦を是とする社風
興味深いのは1960年という初期段階に社員持株企業へと移行している点だ。屋号は社員コンテストで決めたそうなので、創業者が意思決定の大半を占めるワンマン体制で運営するという、よくあるタイプとは初期段階から違っていたようだ。
創業ファミリーが経営していたのは89年までとなっていて、それ以降の4人はすべてサラリーマン経営者で、ほぼ10年ごとに交代している。誰かが権力を持って組織を振り回すということもなく、かといって弱い経営者が登場して組織を劣化させることもなく、非常に良好な体制を維持し続けている。
もちろん4人ともに生え抜きで、人材開発力も良好なのだろう。外部から経営者を招聘することを否定するつもりはないが、自社内に人材開発力がないことを認めているようなものでもあり、社内昇格があるべき姿だろうと思っている。
この社員持株制とサラリーマン経営がハイヴィーの経営体制の大きな特徴で、加えてオペレーション上の特徴として多角化や新技術の積極的な実験など、新しい何かに積極的に挑戦する社風を挙げたい。本特集はこの新機軸を中心に構成することになる。
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