近年はチェーンストア業界でもアパレル業界でもM&A(合併・買収)が盛んだ。驚くほど高額だったり逆に叩き売りだったり、「その手があったか!」と意表を突く買収があったりで、まさしく生き馬の目を抜く有様だが、「正解」と思えるものばかりではなく、残念ながら「勘違い」としか思えないケースもある。チェーンストア業界のM&Aはどうあるべきか考察してみたい。
チェーンストア業界のM&Aは「水平拡大」ばかり
チェーンストア業界のM&Aで目下、最も注目されるのはセブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイHD)の事業分割と売却であることは言うまでもあるまい。そごう・西武を二束三文で叩き売ったのも束の間、カナダの大手コンビニチェーンACT(アリマンタシォン・クシュタール)に買収を迫られ、非コンビニ事業の分離によるグローバルなコンビニ専業チェーンへと舵を切った。ACTが8月の一株14.86ドル(4兆5000億円ほど)から18.19ドル(7兆1000億円ほど)に22.4%も値上げして再提案する一方、創業家も買収による非公開化(8兆円以上と言われる)を提案するに及んで、ACTの買収提案を受け入れるか、創業家の買収提案を受け入れるか、はたまた現経営陣による独自路線を貫いて上場を維持するか、最終的な選択を迫られている。
「セブン-イレブン」という国民的生活インフラが外資の傘下になることへの抵抗感や創業家による混乱収拾への期待など心情論もあるが、「巨額の買収資金を投じて回収できるのは誰か」という理性的視点からは自ずから帰結が見えているのではないか。
チェーンストア業界ではイオンを軸としたドラッグストアとスーパーマーケットの再編劇が緩やかな連合から効率的な統合へと時間をかけて王手に近づいているが、後述するように量の論理の「水平拡大」であって質の論理の「垂直深耕」ではないから、統合によるコストメリットはあっても飛躍的なプロフィットメリットは期待できない。水平的な拡大は「足し算」にしかならず、リージョナルが事業単位となるスーパーマーケットでは下手をすれば「引き算」にもなりかねないから、「掛け算」が可能な垂直深耕の方が投資効率が高いのではと疑問を挟みたくなる。
セブン&アイHDの一件もドラッグストア業界やスーパーマーケット業界のM&Aも皆、「水平拡大」ばかりだが、アパレル業界では「水平拡大」と「垂直深耕」を比較できるM&A劇が相次いだ。
ライトオンとマックハウスの買収劇
2024年10月8日に発表されたワールドによるライトオン(東証スタンダード上場のジーンズカジュアルチェーン)、10月11日に発表されたアパレルに特化した物流商社・ジーエフホールディングス(GFホールディングス)によるマックハウス(同上)の買収は、どちらも業績の低迷が長引いた果ての身売りゆえ、ライトオンは前日終値の株価に対してマイナス64.6%、マックハウスに至ってはマイナス90.4%という叩き売り同然のディスカウントTOB(株式公開買い付け)となった。
ライトオンの場合、業績凋落の果てに6期連続の純損失に陥り、破綻の危機が迫った24年8月期は純損失が121億4200万円にも膨れ上がって自己資本比率が1.6%と超過債務寸前まで落ち込み、法的破綻か身売りかの二者択一に追い込まれていたから、110円というディスカウント価格もやむを得なかった。マックハウスのTOBでは25年2月期中間期末(24年8月31日)の純資産が一株当たり137.44円でも買付価格が32円となったが、ライトオンの同時点(24年8月期末)の一株当たり純資産は8.49円ともっと低く、110円の買付価格は13倍近い最善の評価と見ることもできよう。
ライトオンのTOBは12月3日から始まったものの来年1月6日に終了するまで予断を許さないが、マックハウスのTOBは11月12日に予定通り終了している。TOBの成否はともかく、ワールドによる買収のメリットと再建見通しについては業界では疑問に思う人もいる。
EC物流と関連サービスのGFホールディングスが自社の物流インフラとECフルフィル体制、ECのパーソナルマーケティングなどを活用してマックハウスの業績を早期に建て直すとしているのに対し、ワールドはまずは店舗と人員の削減などリストラによるコスト削減、ついでワールドグループのMDと在庫コントロール、商品開発と調達のリソースでロスとコストを削減、という二段階でライトオンを立て直すとしている。GFホールディングスによるマックハウスのテコ入れが相当に具体的、かつ売上の拡大を伴うのに対し、ワールドによるライトオンの再建はリストラ先行で売上が大きく減少するのに加え、ジーニングカジュアルとは縁遠いワールドのリソースが役立つのかという不安も指摘される。
水平拡大と垂直深耕の両面買収劇
そんな疑念を一掃したのが11月28日に発表されたワールドによる三菱商事ファッションの子会社化という第3の買収劇だった。
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