チェーン理論の理想は無店舗のアマゾン
ここ数年、流通業チェーンの経営の世界で、意見が一致しているテーマの1つが「デジタル化の推進」である。だが、ここで立ち止まって考える必要がある。お客をアナログに「見る」ことの大切さは、デジタル化と矛盾しない。
もともと、「見る」というのは本質的にアナログな作用である。人間に限らず、地球上のすべての動物における「認識」の基本は、主に目やそのほかの五感にある。そして、五感すべての認識の基本は、デジタルではなくアナログである。
デジタルの見本としてよくあげられる、数字とアルファベットと記号の無意味な羅列にしか見えないプログラミングの画面さえ、人間がそれを認識し得るのは、それら記号のすべてが「アナログな表示」だからである。人間が「デジタル」と思い込んでいるこれらの記号をわれわれが認識できるのは、それが「アナログのかたちをした記号」だからである。だが、それが「個店経営」とどのような関係があるのか。
すでに述べたように、店舗流通業の特徴は、個々の店舗で「お客が見える」ことだった。「見る」とはアナログ認識である。だが、米ウォルマート(Walmart)をモデルにした、品揃えがまったく同じ画一売店チェーンの場合、個々の店舗のお客をわざわざ見る必要はない。仮に見たとしてもその結果を生かせるわけではなく、本部に集中する各売店からのデータを、デジタル的に処理さえすればいい。ウォルマートが店舗ピックアップを採用したのは、その意味で象徴的である。なぜなら店舗ピックアップでは、売場でお客を見ることはできない。
とすれば、店舗自体を無用にしたアマゾン(Amazon.com)がデータのデジタル処理のみで成り立っているのは当然だろう。無店舗販売、無人販売、店舗ピックアップでは、そもそもお客を見る以前に、店舗売場の人間が関与する余地がない。だが、チェーン組織論をよく読み込めば、この状態こそ「チェーン理論」の理想であることがわかる。アマゾンこそ(それを意図したわけではないだろうが)、店舗とその要員という“コスト”をすべてゼロにした、チェーン理論の理想の実現にほかならない。
店舗があってこそアナログ認識が生かせる
だが、店舗に拠点をおいた個店経営では、事情は異なる。
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