13期連続で売上増を達成中―― 和・洋生菓子、焼き菓子、アイスクリーム、パンなどの製造小売業を手掛けるシャトレーゼ(山梨県)が元気だ。現在、菓子専門店を国内約800店、海外190店を展開し、急ピッチで出店を進めている。1954年創業のシャトレーゼはなぜ繁盛するのか?齋藤寛会長率いるシャトレーゼの勝ち続ける独自戦略に関心が高まっている。
「おいしくて安い」を実現するSPA
シャトレーゼが急伸している理由はどこにあるのか。2年前に、齋藤寛会長の著書「シャトレーゼは、なぜ『おいしくて安い』のか」で語られている通り、現在も連続で売上を伸ばし続け、勝ち続ける独自戦略を貫いている。
シャトレーゼの人気の秘密を探るために店舗に足を運んだ。数多くの商品(約400種類)が並べられ、販促のチラシやポスターなど余計なアピール文は目にしない。「おいしくて安い」というのがお客に支持される一番の理由だという。シャトレーゼは「品質にこだわりながら手ごろな価格で提供する」ことを重視し、これを実現するために、自社で原料調達から販売まで一貫して手掛けている」。さらに、「材料を産地や契約農家から自社工場へ直送して製造し、店舗へダイレクトに配送する。中間業者を通さないで、お値打ち価格を実現している」という。
「おいしくて安い」を実現するために、今、力を入れているのは、製造拠点の拡大だ。各店の商品補充が追い付かないほどで、客数の伸びと商品供給のバランス確保が急務となっている。
2024年度中に、岡山県、山形県、鹿児島県の3カ所に新工場を稼働させることを発表している。これで国内の生産拠点はグループも含めて13カ所になる。生産拠点を増やし、各店舗に鮮度の高い商品を届けやすくするために、新工場戦略はまだ続く。ポイントは、「おいしくて安い」を提供するために、新工場も投資コストを抑えている点だ。パチンコ店や自動車部品工場跡地などの既存の建物を利用する居ぬき物件を利用しているのである。
同社は「シャトレーゼ」と「YATSUDOKI」の2つの店舗ブランドを持つ。2019年9月、銀座に新業態「YATSUDOKI」を立ち上げた。都市型立地で焼き立てと作り立てを提供するために工房を設置した店舗である。全国に24店舗を展開する高級志向のYATSUDOKIは、贈答品として「おいしくてリーズナブル」「高いから価値がある」をねらっている。
躍進の大きな要因はフランチャイズ
シャトレーゼが飛躍したもう一つの理由がフランチャイズ・チェーン(FC)方式を採用して、工場直売の店舗展開を進めたことである。シャトレーゼのFCの推進のベースになっているのが経営理念であり、社是だ。1967年に社名をシャトレーゼに変更した際、社是を「三喜経営」と改め、徹底した経営を行った。
三喜経営とは「お客様に喜ばれる経営」「お取引先様に喜ばれる経営」「社員に喜ばれる経営」の3つがあってこそ経営が成り立つという考え方だ。このうちFCと関連するのが2番目。生産者やFCオーナー、デベロッパーが儲かる仕組みを考えることである。FCオーナーは、いわば、「のれん分け」をしたパートナーと位置付け、一緒に成長していきたいと考えているという。
ややもすると、社是や経営理念は形骸化しがちだが、シャトレーゼは「判断するときの物差し」として徹底している点も強みだ。
さてFC店舗の現場はどうなっているのか。2022年7月に開業し、FCで客数ナンバーワンの「中野ブロードウェイ店」に足を運んだ。FCオーナーは実は銀座ルノアールである。吉田緋莉店長は「店長就任時に立てた目標の2倍の客数を維持しています。20坪の中規模店で、商品をどこに置くか、毎日の売れ筋をみながら研究しています。開業時含め、販促としての宣伝はしておらず、一度店に寄ったお客さまにまた来店していただいています」という。
2022年3月にオープンした「YATSUDOKI汐留日テレプラザ」。シャトレーゼとYATSUDOKIの2つの店長経験のある遠藤浩子店長は「標準店舗と異なり、1階が7坪の店で2階のカフェ(11席)という構成。周りはオフィス街でホテル、劇団四季など立地条件が他と異なることもあり、オープン当初は苦戦しました。そこで、他店ではやっていない、オフィス街やホテルで働く人たちを相手にギフトや贈答品を薦める作戦を立てたことで売上が上向き始めました。またカフェ需要では、10時からの朝食モーニング時、海外客の来店が増えています。シャトレーゼの季節の原材料(果物など)などを活かした高級感のある商品をお客様に提案し、工房を生かしたこの店特有の商品づくりに力を入れたい」と語る。
強固な顧客基盤、920万人のファンが支える
「安いのにおいしい」という理由から、一度利用するとファンになる人が多いのだというシャトレーゼ。その味へのこだわりを象徴しているのが「ファームファクトリー」という考えだ。菓子に必要な素材を農場・農園から直接仕入れて工場に送り、できる限りの新鮮さでお菓子にするというシステムである。
シャトレーゼには特有の制度「カシポ会員」がある。入会費・年会費無料でシャトレーゼとYATSUDOKI店舗で使えるポイントプログラムである。100円購入ごとに1ポイント貯まり、1ポイント1円から値引きで利用できる。カシポ会員は5年前560万人だったが、現在、920万人まで増加しているというから驚きだ。
シャトレーゼの売上推移をみると、20年3月期が618億円(540店)だったが、23年3月期には1175億円と約2.1倍にまで急成長している。
シャトレーゼの国内、海外の出店状況だが、国内のシャトレーゼ店舗は、現在、約800店(うち直営は60店舗)である。海外はアジア9か国/地域(約190店)を中心に積極的に出店を展開している。
シャトレーゼの古屋勇治社長は「国内、海外とも積極的なFCチェーン展開を行っています。特に、東南アジア(8か国)は若い人の人口構成が増えていますので、より積極的に展開をしていきます。各国から問い合わせが増えているので、『三喜経営』を理解した企業と一緒に取り組んでいます」という。
ここまでシャトレーゼが成長カーブを描いている理由をいくつか指摘してきたが、顧客支持の地道な獲得の背景にある「おいしくて安い」商品の開発における、「お客さま第一」を具現化した事例を紹介したい。
それが、和菓子の草餅のヨモギ摘みを社員で実行しているという点だ。問屋からヨモギを購入すれば済むことだが、社員が工場近くの自然のヨモギを摘んだものを一次加工して保存している。
「おかげさまで順調に経営を続けていますが、メーカーですから“売る立場”ではなく、“買う立場”を忘れないで仕事をしていきたい。また、今後、『価格と価値』を見極めながら、いっそうシャトレーゼ独自の戦略を打ち出していきたい。たとえば、おやつから手土産、贈り物を強化させたいと考えています。日本にはいたるところに素材が眠っています。地域、地域の素材を使って商品企画開発を強化させる努力を続けます」(古屋勇治社長)
原点を忘れず、「お客様第一の目線からの商品開発」「おいしくて安い」「宣伝費をかけず、価格を安定させる」など、齋藤寛会長の経営哲学で成長するシャトレーゼの今後の展開を期待したい。