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経営学者・楠木建氏も絶賛!店舗当たり年商約27億円を稼ぐ 「クックマート」の競争戦略

 愛知県・東三河~静岡県・浜松エリアで現在12店舗を展開する食品スーパー(SM)「クックマート」は、1995年創業と業界でも後発の企業ながら、1店当たり平均年商で約27億円を稼ぐほど地域で高い支持を得ている。そんな同社の強さの源泉となっているのが、独自の競争戦略だ。ここに至るまでの歩みや、具体的な戦略内容、そしてこれからめざす「ローカルチェーンストア・第三の道」についてまとめた書籍『クックマートの競争戦略』(発行:ダイヤモンド社)が7月25日に発行された。同書籍の一部中身を紹介するとともに、今後の食品スーパー業界に求められることについて述べる。

愛知県・東三河~静岡県・浜松エリアで高い支持を得る「クックマート」
書籍『クックマートの競争戦略』

小型店でありながら
店当たり年商27億円

 デライトホールディングス(愛知県/白井健太郎社長:以下、デライトHD)が運営する「クックマート」は、全店20時閉店でチラシ販促もしない、「ローカルの普通の人々が活躍できる」ことをめざす人事モデル、投資ファンドとの戦略的資本業務提携など、「スーパーの常識を超える」といっても過言ではない独自の経営スタイル、成長戦略を特徴とする。

 書籍『クックマートの競争戦略』は、そんなユニークな戦略が生まれた背景や、具体的な施策、そして今後の日本でめざす成長戦略「ローカルチェーンストア・第三の道」について白井健太郎社長自らが綴ったものだ。
 さらに、日本を代表する経営学者である楠木建氏(一橋ビジネススクール特任教授/著作『ストーリーとしての競争戦略』)が「クックマート」の競争戦略を絶賛し、その優れた点を、「競争戦略の勝利条件」「トレードオフの選択」「持続的競争優位性の正体」など、経営学の視点から約35ページに渡って解説している。

 オーバーストア、同質飽和化が指摘される食品スーパー業界において、他社と差別化を図り支持されるためにはどうすればよいのか。著者の実践や経験からヒントを得られるとともに、楠木氏の解説から、学術的にも競争戦略で重要なことを学べる1冊だ。

クックマートの店内に並ぶ独自商品の数々
なぜ、クックマートが大手に負けず支持を得られるのか。書籍では経営学の視点からも解説されている

「ないない尽くし」の経営
戦略の要旨はフォーカス

 本書籍のなかで、業界に一石を投じている内容の1つに、クックマートの「ないない尽くし」の経営スタイルがある。

「価格訴求のチラシがない」
「深夜営業しない」
「ポイントカードがない」
「クッキングサポート・レシピがない」
「深夜営業しない」
「大きな本部がない」・・・

 このように一般的な食品スーパーでは当たり前のようになっている施策をクックマートでは行っていない。自社の戦略の実現を主眼に「やるべきこと」「やらないこと」をはっきりさせているのだ。

 楠木氏は解説にて「戦略の要旨はフォーカスにある。裏を返せば『何をやらないか』をはっきりさせれば、顧客に対して他社との違いをはっきりと示すことができる」と、クックマートが実践するトレードオフの選択の重要性を指摘している。

 このように「やるべきこと」を取捨選択するために必要となるのが、自社の戦略コンセプト、すなわちめざす方向性を明確にすることだ。

 これに対してクックマートでは、白井社長が代表に就任以降、自社の組織文化、価値観を体現した戦略コンセプトを模索し辿りついた、独自の理念「楽しむ、楽しませる!」(自身も楽しんで、その結果、お客を楽しませることをめざす)、ストアコンセプト「リアル×ローカル×ヒューマン=地域の活気が集まる場所」のもと、意思決定を行っている。

 国内人口の減少や競争激化による人手不足の深刻化、各種コストの増加などを背景に、食品小売企業の経営資源はいっそう限られる状況にある。そうしたなか、クックマートのように、改めて自社のめざすべき方向性を明確にし、必要な施策に注力することはこれまで以上に重要になってくるだろう。

 

書籍『クックマートの競争戦略』
7月25日~好評発売中
税抜1800円

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食品スーパー業界は
複雑性の高い「ナマモノ」

 著者の白井健太郎社長は、創業者の白井正樹氏から経営を引き継いだ2代目社長だ。もとはインターネット広告、キャラクタービジネスなどに携わっていたいう異色の経歴の持ち主である。

 本書では、そんな白井社長が自身を「人生の厄介息子」と呼び、紆余曲折を経て現在の経営に至った歩みを赤裸々に語っており、自分らしく働きたい「悩めるビジネスパーソン」にとっても示唆の多い内容となっている。
 
 特筆したいのは、食品スーパーに携わっていなかった白井社長だからこその視点や業界で感じた違和感が、クックマートの戦略の起点、ユニークな施策へとつながっている点だ。

 たとえば、食品スーパー業界は他業態に比べて寡占化が進んでいない。この理由を白井社長は、食品スーパー業界が持つ下記の特性が要因にあるという。

■売上高構成比の過半が生鮮食品というナマモノである
■生鮮食品というナマモノはローカル性を強くはらむ
■それを扱う人(人材)も客もまたナマモノである

 このように食品スーパーの経営は、3つの「ナマモノ」と呼べるような複雑性の高い要素を持つものであり、(書籍内ではこの特性を「魔境」というあえて特殊な言葉を使って説明している)、そのため、標準化、効率化によって規模拡大をめざすチェーンストア理論だけでは限界があり、クックマートはそれとは異なる道に成長の可能性を見い出している。

会社はコミュニティ
地域の人を活かす!

クックマートの強さの大きな要因に、地域人材が生き生きと活躍できることをめざす独自の人事モデルがある

 こうした考えから生まれた、クックマートならではの特徴の1つにユニークな組織戦略がある。ロールスーパーで働くのは地域で生活する「ローカルの普通の人々」だ。その特性も「ナマモノ」と捉えて尊重し、そんな人達が生き生きと活躍できる人事モデルを構築・実践している。

 たとえば、望まないのであれば無理に昇進をめざす必要はなし。従業員がそれぞれ自身にフィットする場所で働けることをめざした「己を知り組織を知るための人事制度」をはじめ、会社自体がコミュニティそのものとなっていることを象徴する「家族バーベキュー会」「ユルい部活動・同好会」など、クックマートならではの制度の数々も興味深い。
 
 これらは今後、地方人材が減り、魅力的な組織となり人材を獲得していくことが食品小売業界でも求められるなか、さまざまな視点を与えてくれる。

「クックマート」モデルで
ローカルスーパーを活性化

 最後に、これから注目されるのがデライトHDの今後の競争戦略だ。同社は2022年9月5日、ファンド運営会社であるマーキュリアインベストメント(東京都)との戦略的資本業務提携を締結するという、これまた異例の発表をしている。投資会社であるマーキュリアと組むことで、ファイナンス等に長けた経営人材の獲得と、ローカルスーパーの成長モデル構築を図る。

 ローカルスーパーの成長モデルの構築では、具体的には、成長を続けるクックマートの組織づくりや店舗運営のノウハウを体系化。これを生かしてクックマート既存店を磨き上げるだけでなく、将来的にはこの成長モデルのその他小売業への導入や、賛同してくれた企業とのグループ化や提携・連携なども見据えている。
 
 デライトHDの白井健太郎社長は今回の提携について「業界の常識やチェーンストア理論の枠組みを超えてブレイクスルーするためには、異なるバックグラウンドを持つ専門家集団とのコラボレーションこそ理にかなっている。ローカルスーパーの次世代の成長モデルを実現したい」と意気込みを語っている。

 このように、これまでのローカルスーパーとは異色の成長路線を歩み出しているクックマート。大手チェーンの進出や深刻化する人口減などによって、ローカルスーパーの経営は年々厳しさを増している。こうしたなか、ローカルスーパーが勝ち残る新たな道を切り開いてくれることに期待したい。

書籍『クックマートの競争戦略』
7月25日~好評発売中
税抜1800円

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