コロナ禍を経て消費傾向が大きく変わり、企業活動では各種コストの増加が重くのしかかるなど、食品スーパー(SM)をはじめとした食品小売企業は厳しい環境に立たされている。そうしたなか現在の市場の流れをいかに読み、どのような方向性に向かっていくべきか。小売業界担当のトップアナリストとして長年活躍し、現在は小売企業をはじめ多くの企業のコンサルティングを行う、フロンティア・マネジメント代表取締役の松岡真宏氏に聞いた。
再編を呼び起こす2つの要因
コロナ禍を経てSM業界は大きく変化している。業界再編に向けたマグマが地中にたまり、いつ噴出してきてもおかしくない状況といえる。
SM業界の再編機運が再び高まりつつある要因は大きく2つだ。
1つは、戦後、日本のSMを築き上げてきた創業者たちが鬼籍に入られるニュースが続き、世代交代が生じていることだ。創業者の存在があるとなかなか進められないような抜本的な改革が行われるようになってくるだろう。
もう1つは、とくに上場企業の場合、ESG(環境・社会・ガバナンス)への対応を迫られていることだ。そのための負担はSM企業にとってけっして軽いものではない。
目下、原材料価格やエネルギー価格、物流費、人件費などが軒並み値上がりしている。加えて、「グリーンフレーション」という造語が生まれたように環境対策や、サステナブルな事業運営の実現にもコストがかかる。
こうした食品小売の状況に対して、中間流通である商社や卸の食品部門は比較的、利益が出ている。インフレによる値上がりぶんを価格転嫁できているということだ。言い換えれば、SMが仕入れ価格の値上げを受け入れているということだが、小売価格にそれに見合うだけの上乗せができていない。外食企業もそうだが、「値上げ=客離れ」という意識が強く、その一歩を踏み出せていないのだ。だからといって「すぐさま値上げをするべきだ」と言うつもりは毛頭ない。今後、消費の二極化がこれまで以上に進むと考えられるからだ。
最近では、収入増を見込めない中間所得層以下に向けて、より低価格のプライベートブランド(PB)を強化する動きが出てきている。たとえば、ディスカウントストア(DS)の「ドン・キホーテ」は、コロナ禍でプライベートブランド(PB)「情熱価格」をリニューアルし、支持を獲得している。こうした動きは、とくにDSの間で広がっていくだろう。
対して、日常の食生活を支えてきたSMとしては、DSに負けない手を打ちたいところだ。しかし、価格で対抗しようとすると手元のキャッシュが潤沢な企業でなければ手は出せない。
それでも何らかの対策を講じなければ自分たちの存在が危うくなるとなれば、経営統合とまではいかなくとも、業務提携や協業などの動きが活発化してくるだろう。
今後求められる緩やかな連携
二極化のもう一方の動きとして、
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