メタバースが時期尚早すぎる理由と、将来のアパレルへのインパクトも小さい理由

河合 拓
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店舗の3層構造化とそれに伴うメタバースの使われ方

Ksenia Gromova/istock
Ksenia Gromova/istock

 しかし、私は時が来ればメタバースの技術はアパレル産業に大きな貢献をするのではないか、という仮説をもっている。

 すでに別の論考で書いているように、先進的なブランドイメージをアピールしたいHermèsLVMHなどのスーパーブランドがこのメタバースを一時の流行と認識した上で、活用するのは何ら問題ないし、1つのマーケティング戦術だ。だが、自分たちのブランドがHermèsLVMHと同格なはずもないのに、メタバース に投資しようとしたり、いわゆるアパレル産業とコレクションブランドの違いさえ分からない有識者達や企業は、一般アパレル産業に過剰な期待を持ち、この技術をあやまった方向にもってゆくのは自身を客観視できないからだ。嫌われることを承知で敢えていわせていただきたいのは、政府などで検討している有識者と呼ばれる人達の一般認識は酷いもので、一気に世代交代をすべきであると私は思う。

 さてこの時間軸を踏まえた上で、メタバースは将来的にどのような使われ方をしていくのかを考えていこう。

 まず知るべきは、今後の国内人口と店舗のあり方だ。

 日本にある全店舗の20~30%が営業赤字といわれており、赤字店舗は無意味に経営資源を浪費し余剰在庫を量産している。今後人口減少とともに、こうした資源を食い潰す赤字店舗はますます増えてゆくだろう。人口ピラミッドのデモグラフィックだけは絶対に嘘をつかないわけだから、この流れは不可逆的なのだ。オンワード(店舗撤退)、三陽商会(リストラ)、レナウン(経営破綻)の御三家が、百貨店の店舗数を減らし、地方ではテナントが埋まらない状況だ。しかし、インバウンドの反動で単店舗の百貨店の調子は良いという。私は、二年前から「百貨店の価値は落ちない、ただ店舗数が多すぎるだけだ」と予言したが、その通りになっているわけだ。一方、ショッピングセンターはアダストリアの主戦場で、消費者の目に付く場所にはアダストリア・ブランドが建ち並び他を寄せ付けない。まさに、一人勝ちの状況である。

 こうした状況を踏まえ考察を進めれば、店舗は3つの階層に分かれることになり、メタバースの出番がでてくることになる。。

 それが①「駅チカ」、②「過疎地域」、③「中間地点」の3つだ。

 従来の形式で残り続けるのは、①の「駅チカ」だが、正確を記すなら「トラフィックの多い場所」と理解してほしい。ただし、店舗には常にサンプルが置いてあり、決済はスマホで行って翌日、あるいは、翌々日にセンター倉庫から自宅に届けてくれるサービスが主流になるだろう。これで、アパレルのセンター在庫は日本で2-3カ所となり、一元化が進むにつれて在庫効率は上がって余剰在庫や欠品も大きく激減する

 第2階層が「過疎地域」だ。メタバースはこの部分に使われるだろう。つまり、得られる売上と粗利益を考慮すると、土地を借りたり人を雇うにはブレークイーブンポイント(損益分岐点)が高すぎる場所だ。お客もわざわざ遠くに行かずともVRゴーグルをはめればお買い物が楽しめる。企業がレコメンドするVMDでブランドの世界観を堪能する。いくつかの服を選べばゴーグルを外し、スマホやPadで自由に服を組み合わせてコーデを楽しむ。コーデはモデルを自在につくり3Dで動かすことも可能だ。そのブランドにロイアルティのある顧客は、Chat-GPT (AI)が好みを学習し推奨するコーデを提案する。必用とあればVR (拡張現実)を使って、自分の写真に選んだコーデを着せて雰囲気を感じることも可能だ。その写真は自分のスマホにストア(保存)でき、在庫がなくなりそうになるとアラートで教えてくれる。これらは、すでに実存する技術で私が確認したものばかりだ。企業は中期経営計画を発表しているが、こうした未来像を従業員に見せて初めて「デジタル企業」であることを示すことができるのだ。

 最後が第1階層と第2階層の中間点である。ここはデベロッパーとなるだろう。バリューチェーンの中に販管費が2つ(テナント側と小売側)あるのは、ムダ以外の何物でもないため、事実、百貨店はすでにデベロッパー化する動きが進んでいる(百貨店はまさに2重販管費の業態だ)。

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